2013 Fiscal Year Annual Research Report
トランスジェンダーが背負うコスト--「遺産相続なきマイノリティ」として生きる困難
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13J09084
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
吉野 靫 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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Keywords | 性同一性障害(GID) / トランスジェンダー / GID規範 / GID医療 / ジェンダー / セクシュアリティー / 性別二元論 / クィア・スタディーズ |
Research Abstract |
2013年度は単著執筆の予定を次年度以降へと延ばし、フィールドワークやヒアリング調査を積極的に実施した。ヒアリング調査については、青少年向けの一般書執筆に向けた作業として位置づけた。博士論文で大きく取り上げることをしなかった若年層のセクシュアル・マイノリティ、特にトランスジェンダーの問題について、試みに教育現場における認識を調査することとし、全国学力テスト上位の県において一週間程度実施した。対象は、県立高等学校で教員や校長を務め教育委員会勤務の経験も持つ大学教員と、現役の教育委員会役職者である。具体例としては、中高における制服の選択制などはある程度進んでおり、特に新設の高校においては多様な生徒の入学を念頭に託児所が併設されているなど、先進的な姿勢であった。これらはセクシュアル・マイノリティへの対応として打ち出しているものではないが、聞き取り対象者は「間口を当初からできるだけ開いておくことで、一定のマイノリティだけを『優遇』することなく、すくいあげる範囲を自然に広げることができるのではないか」という個人的見解を提示した。一方で土地柄、在日外国人や被差別部落の問題については立ち遅れを自覚しており、道徳教育の資料に人権の枠組みを強化する作業が進行しており、その中に「性」の観点が加わる可能性もある。打ち出し方について引き続き注視したい。 フィールドワークは主に、博論執筆時から大きな示唆を得ていた「水俣病」事件の構造を知るために行った。「病」を「勝ち取る」こと、「病」と「認定」されること、本物・偽物という「患者」の峻別について、本研究にも共通する知見を得た。また在日朝鮮・韓国人への差別について戦時長崎の強制労働に関する資料を閲覧した。生まれついての「属性」を突きつけられる点は、男女二元論に抑圧されがちなトランスジェンダーの問題と相似する点もあるため、先行資源のひとつとして検討したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2013年度は前年度に提出した博士論文の修正作業に多くの時間を取られた。この修正は、博士論文試問時に主査・副査から提示された様々な問題・課題を解消するためのものであり、博士論文をもとにした単著刊行を検討する上で欠かせない作業であった。当初の年度計画には組み込まれていない作業であり、修正を経ることで研究方針の見直しを迫られた側面もあるため、現時点では必ずしも予定通りに進捗しているものではない。 ただし聞き取り調査やフィールドワークは概ね予定通りである。単著刊行に向けての視野も広がっており、採用期間内に複数冊を上梓する可能性もあることから、今後の進展が大いに見込まれるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当面は、以下を大まかな柱として研究を進めたい。(1)若年層の「セクシュアル・マイノリティ」問題に対する国や地方自治体の認識についての調査、(2)トランスジェンダーの状況を概観するため、90年代初頭からの状況を知る専門家やアクティビスト、あるいは一線を退いた元アクティビストへのヒアリング調査、(3)申請者の研究や提言を肯定的に評価している若手トランスジェンダーやクィア層との繋がりを広げること、(4)「トランスジェンダー」あるいは広く「クィア」をテーマに掲げた学術シンポジウムの開催、(5)上述した水俣病事件や在日外国人をめぐる研究を検討し「先行資源」として扱うことができるかどうかの検討。 (1)と(5)は、従来の研究計画ではあまり明確に位置付けていなかったが、すでにフィールドワークも行っていることから、引き続き考察していきたい。
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Research Products
(2 results)