2013 Fiscal Year Annual Research Report
社会主義体制末期の民衆運動とナショナリズム:ユーゴスラヴィアからみる東欧革命
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13J09120
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 健太 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 現代史 / ユーゴスラヴィア / 社会主義 / ナショナリズム / 民衆運動 / 1989年 / 東欧改革 / セルビア : スロヴェニア : クロアチア : マケドニア |
Research Abstract |
初年度は全体として、1 : 課題遂行のための基礎的作業、2 : 史資料の調査・収集、3 : 史資料による分析・検討、に取り組んだ。 1に関しては、関連文献を主に国内で広く収集しつつ、研究課題遂行の前提作業として、(1)ユーゴスラヴィア社会主義体制の諸制度、(2)1980年代末の東欧各国の体制変動について全体的な整理と把握を行った。またその際、世界史教育に関する著作の書評(『飯田市歴史研究所年報』11号掲載)に取り組み、課題を進めるうえでの当該地域に留まらない世界史的な視点と問題意識を得た。 2については、セルビアとクロアチアで現地調査を実施した。史資料状況の把握とともに、3に必要な、主に1980年代後半の新聞・雑誌の定期刊行物、同時代記録集などを図書館等で閲覧・収集した。加えて国内の一部所蔵機関で、定期刊行物資料の収集と補完にあたった。 3では、研究課題の中心となる1980年代末ユーゴスラヴィアの民衆運動とナショナリズムとの相互連関について、(1)初期のスト多発、(2)民衆運動の拡大と政治化、の観点から考察を進めた。(1)に関しては、ラビン(クロアチア)の炭鉱ストとヴェプチャニ(マケドニア)の住民運動を事例に定め、収集した地方紙から事実関係の分析を進めている。2の進捗を受けて重点的に実施した(2)の検討では、ヴォイヴォディナ/セルビアで頻発したデモ・集会の様相から、運動の拡大には、従来強調される民族(主義)的な動機のみならず、社会主義体制下において民衆の政治参画が特別な意味をもつなど、要因の多面性が重要な触媒となった点を明らかにした(聖心女子大報告)。またここでの検討では、1の成果を踏まえつつ、研究課題全体の手法として「ナロード」概念に焦点を当てる着想を得た。この「民族」と社会主義的な「人民」の双方を包摂する「ナロード」の複相性を手がかりに、引き続きヴォイヴォディナの事例の検討を深め、民衆運動の展開とナショナリズムとの結合の一端を示した(神戸大報告)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
関連文献の把握・整理を出発点に、史資料の収集とそれに基づく分析・検討を比較的順調に進めることができた。とりわけ民衆運動の展開を検証する切り口としての「ナロード」概念の導入は、方法論的な考察の意味でも、分析・検討対象の精緻化の意味でも、研究課題をとりまく今後の道筋をつけるうえで有意義であったと言える。その点を、現地調査の際、現地の研究者との意見交換のなかで確認できたのも実りであった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度中、第64回日本西洋史学会大会(2014年6月)での小シンポ報告が内定し、また論文集の共同編集をきっかけに、スロヴェニア現代史研究所の研究者と国際学会の共同パネルを申請し、採用された(第46回スラヴ東欧ユーラシア学会(ASEEES)年次大会(2014年11月、アメリカ合衆国))。次年度は、これら2報告を中間的成果発表の場として生かしつつ、初年度の成果を含めた研究成果の公開(論文発表)に努める。
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Research Products
(4 results)