Research Abstract |
地球大気の酸素濃度上昇史の解明は, 地球史学における長年の重要課題である. 地球誕生直後にはほぼゼロであった大気中酸素濃度は, 原生代初期と後期の全球凍結直後に上昇し, 生命進化に寄与したと考えられている. しかし, 実際の上昇過程は未だ明らかでない. 本研究では, 酸素濃度の変動と密接な関わりをもつ微量金属元素の挙動に着目し, 酸素濃度変動史の解明を目指す. 地球表層(大気・海洋・岩石圏)における微量金属元素の存在度は, 酸素濃度の指標となるだけでなく, 生物活動を介して酸素濃度と相互作用する. そのため, 本研究では新しい試みとして, 微量金属元素, 生物活動, および酸素濃度の三者の変動を統合的に解く数理モデルを開発する. そして, 数値計算と地質記録との比較から酸素濃度上昇過程を解明することを目指す. 本年度は, まず微量金属元素の挙動を計算する土台となる鉛直一次元大気海洋化学循環モデルを開発した. 本研究が対象とする原生代の大気海洋にも対応可能なモデルとするため, 既存の海洋モデルに対し以下の改良を加えた : (1)大気ボックスモデルの結合, (2)メタン循環導入, (3)貧酸素環境下の硫黄循環導入 (4)鉄(Fe)・マンガン(Mn)酸化還元反応の導入を行った. 作成したモデルを用いて, 原生代初期全球凍結直後を模擬した数値計算を行い, 結果を地質記録と比較した. 計算の結果, 退氷直後の海洋中では, 酸素濃度上昇に伴ってFe, Mn酸化物の沈殿が1万年程度の時間スケールで起きることが明らかになった. 約10万年後には炭酸塩鉱物の沈殿が起こり, さらにその後には海洋中の硫酸濃度が数千万年の長期にわたって上昇し, 硫酸塩の沈殿が起こりうる可能性も示した. この結果は, 全球凍結後の一連の地質記録(南アフリカ共和国, トランスバール累層群)を, 初めて定量的かつ整合的に説明するものである. 本研究からは, 全球凍結後に酸素濃度の上昇に対し重要な役割を担っていたことが強く示唆される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の主要な目標は, 土台となる鉛直一次元大気海洋化学循環モデルの開発であった. 開発にあたっては, 特にFe・Mn反応系の導入に多く時間を費やしたが, 最終的には無事にほぼすべての行程を終えることが出来た. 研究の成果の一部は国内開催の国際シンポジウムおよび国際学会で発表しており, 論文を国際誌に投稿中である. 国際シンポジウムでは学生発表賞を受賞するなど, 研究成果に対して好評価を得た.
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Strategy for Future Research Activity |
今後はFe・Mn以外の金属元素の化学反応系, およびそれらの生物活動との相互作用をモデルに組み込むことを目指す. まずターゲットとして計算を試みる元素は, モリブデン(Mo)である、理由は2点ある・地球史を通じた海洋中存在度の変動記録が存在し検証が可能であることと, 。生物の代謝(窒素固定)を通じて酸素濃度と相互作用する可能性が高いことである. この挙動を解明することで, 原生代中期から原生代後期にかけての酸素濃度変動の理解が大きく進展する可能性が指摘されている. しかし, Moの挙動に対する近年の描像を鑑みると, 2点の問題点・変更点が考えられる. 1点目として, 現行のモデルにさらなる改良(沿岸、遠洋の分離)を加える必要がある. 2点目は, 生物活動との関わりを示す実験データが少ないことである. 1点目は既存の沿岸・遠洋分離型海洋モデルを参考にすることで解決可能であると考えられる. 2点目については, 生物科学分野の研究者に協力をあおぎ, 必要であれば自身で実験を行うことでデータを得ることを検討している.
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