2014 Fiscal Year Annual Research Report
モーセ伝承から見る三大一神教文学の比較分析-伝承の背後にあるもの-
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13J09142
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大澤 耕史 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ユダヤ文学 / 聖書解釈 / 教父文学 / ミドラッシュ / アガダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に進めた作業に基づき、ユダヤ教・キリスト教・イスラーム文学における伝承の収集および精読を進めるとともに、伝承をグループ分けするための第一のトピックとして選んだ、ヘブライ語聖書出エジプト記32章の金の子牛像事件にまつわるモーセの伝承についての調査を進めた。ユダヤ教文学では昨年度のタナイーム期(紀元1~3世紀頃)のミドラッシュ、聖書外典偽典に加え、タナイームに後続するアモライーム期(紀元3~6世紀頃)のミドラッシュを中心とした文献を扱った。キリスト教文学では、総体としての教父文学の調査を進めるとともに、今年度は特に東方教会、その中でもアフラハトとエフライムの著作を中心としたシリア教会に着目した。キリスト教という一つの枠組みの中でも、時代や地域、代表的なものではシリア教会を含む東方教会と西方教会の間の(さらには同じ東方教会であるシリア教会内でも)「正統派」争いとでも言うような葛藤、確執を本研究に取り入れることができたのは重要である。それを踏まえて、シリア教会の基礎情報を調査するために多くの時間を割いた。イスラーム文学では、ムハンマドの言行録とされるハディースについての周辺知識を収集するとともに、クルアーンのテキストそのものの調査を開始した。以上のような調査により、当初の研究計画ではユダヤ教・キリスト教・イスラームの比較としていたものが、それぞれの内部における差異にも十分配慮するという方向により深化したと言えよう。 対外的には、7月にパリにて開催されたヨーロッパユダヤ学会の大会に参加し、上述のシリア教父による聖書解釈と同時代のユダヤ教の聖書解釈の比較分析を中心とした研究発表を行った。3月には同志社大学で開催された第八回ユダヤ学会議にて、上述の金の子牛像事件を題材とした、広範な先行研究の分析に基づくシリア教父とユダヤ教の聖書解釈の比較についての研究発表を行った
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度も、一次文献に依拠した伝承の収集・分析とともに、各文献の基礎情報の入手を中心に研究を進めた。ユダヤ教・キリスト教・イスラームという三者の関係に加え、キリスト教会内の東西対立といった、三者内部の差異にも着目できたのは計画以上の進展であった。その分イスラームについての伝承の収集はやや遅れ気味であるが、総合的に見て概ね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き伝承の収集および精読とともに、各伝承のグループ化や背景の考察へと進めていく。上述のように比較軸であった三者内部にも比較対象が存在することが判明したため、三者をそれぞれ一枚岩のように見るのではなく、各地域・時代ごとの差異にも敏感に調査を進めていく予定である。
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Research Products
(2 results)