2013 Fiscal Year Annual Research Report
フラストレーション格子磁性体におけるトポロジカルな量子輸送特性
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13J09540
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 健太郎 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | イリジウム酸化物 / 強相関電子系 / スピン軌道相互作用 / トポロジカル量子相 / 磁気抵抗効果 / 分光測定 / 磁壁 |
Research Abstract |
パイロクロア型Nd_2Ir_2O_7においては、電子間相互作用と重い元素に由来した強いスピン軌道相互作用が協力的に働くことにより、様々な磁気・電子構造が実現する可能性が指摘されている。特に、ワイル半金属相は、バルクがギャップレスな線形分散を持ちつつトポロジカルに守られた端状態が試料表面または磁気的な界面である磁壁に生じる、新奇なトポロジカル量子相として注目を集めている。 本研究では、ワイル半金属相の大きな特徴である磁壁の端状態について、電気輸送測定やテラヘルツ時間分解分光法による多角的な研究を行った。 抵抗率の磁場依存性では、磁気対称性を反映した抵抗率の磁気ヒステリシスが観測された。これは、外部磁場により単一磁区状態に配向されたことを示唆している。さらにゼロ磁場下で冷却した状態(多磁区状態)に比べ抵抗率が増大していることから、磁壁が電気伝導性を持つことを明らかにした。 さらに分光測定により光学伝導度スペクトルを得た。ゼロ磁場下冷却後と磁場印加後の光学伝導度に違いが見られた。これは電気伝導性を持つ磁壁の有無によると考えられる。その差分を磁壁の光学伝導度スペクトルとして実部と虚部をそれぞれ求めると、半値幅約2meVのドルーデ応答に似た振る舞いを示した。これは、磁壁が非常に高い電気伝導性を持つことを示唆している。しかし、光学伝導度の実部はゼロエネルギー極限である直流電気伝導度よりも三桁以大きな値をとる。これは、光学伝導度は直流電気伝導度と異なり、高周波の電場に駆動される局所的な電気伝導度を検知しているためと考えられる。一方、磁壁は多結晶の粒界によって途切れてしまっているために直流電流は絶縁体のバルク中を通りながら磁壁間を流れ、結果として直流極限で電気伝導度が著しく減少していると考えられる。 以上から、絶縁体のバルクと対照的な、電気伝導性のきわめて高い磁壁の存在が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画は、電気輸送測定のみを利用して磁壁伝導の挙動を調べることであったが、超伝導マグネットを組み合わせたテラヘルツ時間分解分光装置を駆使することによって磁壁伝導に関するより有益な知見を得ることができた。さらに、今回の実験結果は今後の研究に重要な指針を与えており、当初の計画以上に進展があったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
パイロクロア型Nd_2Ir_2O_7多結晶体のノイズ測定を行う。この測定により、粒界によって区切られた金属的な磁壁の挙動を観測することができ、磁壁の長さや体積分率、磁壁中の電子の平均自由行程など、輸送特性やテラヘルツ領域の電荷ダイナミクスの観測では得られなかった多くの情報を期待できる。ノイズ測定は抵抗が大きくなければいけないので、試料整形に注意を払う必要がある。また、同物質の単結晶作製により、磁気抵抗率や磁化の磁場依存性や方向依存性、X線磁気散乱法による磁気構造の観測、ナノテクノロジーを用いての磁壁の直接観測や物性評価など、多結晶では調べられなかった事柄について詳しく調査できる。単結晶作製にはフラックス法を用いるが、温度や時間、徐冷速度など、地道に条件を割り出す必要がある。
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Research Products
(5 results)