2014 Fiscal Year Annual Research Report
フラストレーション格子磁性体におけるトポロジカルな量子輸送特性
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13J09540
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 健太郎 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / イリジウム酸化物 / スピン軌道相互作用 / トポロジカル量子相 / 磁気抵抗効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
パイロクロア型イリジウム酸化物においては、電子間相互作用と重い元素に由来した強いスピン軌道相互作用が協力的に働くことにより、様々な磁気、電子相が実現する可能性が指摘されている。特に、電子相関は磁気秩序を誘起するため、磁性と結びついたトポロジカル電子状態(ワイル半金属状態)という新奇な量子相の発現が期待され注目を集めている。 本研究では、単結晶を用いて磁気抵抗効果を調べ、磁気構造変調に伴う電気伝導特性の変化について議論した。 [111]結晶軸方向への外部磁場による反強磁性磁区の制御に成功した。磁区の配向、反転に伴う特徴的な磁化、抵抗率のヒステリシスから、金属状態が磁壁に存在することを明らかにした。 [001]結晶軸方向への外部磁場による、磁気構造変調に伴う絶縁体金属転移を発見した。パイロクロア型酸化物においては、ゼーマンエネルギーの利得が十分大きくなると、強磁性的な磁気秩序形態をとる。磁化の飽和値から、高磁場下ではこの磁気構造であることがわかる。磁場印加により抵抗率がヒステリシスを伴って三桁以上減少する巨大な磁気抵抗効果を観測した。さらに、磁場の角度依存性から、強磁性的な磁気構造をとりうる磁場方位のみ金属転移が生じることを確かめた。以上の結果は、磁気構造変調による一次絶縁体金属転移が生じている可能性を示唆している。理論計算から、観測された転移を以下のように説明できる。反強磁性的磁気構造から強磁性的磁気構造になると対称性が低下する。そのため、電子バンドのトポロジーが変化しなければならず、バンドの歪みが生じる。結果、電子状態密度が異常に大きくなり金属状態となる。本研究は、磁性と電子バンドのトポロジーの関係について議論した最初の例である。さらにこの計算結果は、電子相関、磁気構造の変調による多くの非従来的な電子相の発現を予言しこれからの実験指針を与えている重要な研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
単結晶の育成は非常に難しいため、試料の品質や再現性に問題があった。また試料が小さいために測定手法が制限されていた。しかし、試料の組成比や溶媒と溶質の比、合成温度や徐冷速度など、最適な条件を徹底的に探すことで、磁化や電気輸送測定に適した大きさの、高品質な試料の合成に成功した。 十分な大きさの試料ができたので、電流や磁場の方向を様々な方向に変えて測定できるように試料を整形することができた。これにより、結晶軸方向と電流、磁場の方向の関係についての網羅的な議論が可能となった。 理化学研究所に所属する理論計算を専門とする研究員と共同研究する機会を得たことで、観測された実験結果を理論的に解明することができた。さらに、物理パラメータを変えることでより多くの電子相が実現する可能性について議論することができた。以上は、磁性と電子バンドのトポロジーの関係について議論した初めての例であるだけでなく、実効的な電子相関変調、磁気構造変化による様々な電子状態の実現可能性を予言し今後の実験方針を示した画期的な成果である。 以上から、当初の計画以上に研究が進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
パイロクロア型イリジウム酸化物においては、電子相関の変調により多くの電子基底状態の発現が予言されている。実験的には、希土類イオンを置換することで一電子バンド幅を制御することができる。そこで、他の希土類物質の合成を試みる。高圧合成法は化学反応を促進するだけでなく、組成比を厳密に保つことができる合成方法である。高圧合成法で、サマリウムとネオジム、ネオジムとプラセオジウムの混晶物質を合成し、実効的な電子相関の系統的制御を試みる。高品質な試料作製のため、適切な圧力、温度を模索する必要があるだろう。また、外部圧下輸送特性と比較することで、バンド幅を系統的に制御できているかどうかを議論する必要があるだろう。混晶物質の品質を確認したのち、混晶化合物における、温度、実効的電子相関をパラメータとしたときの金属絶縁体転移を電気、熱輸送測定、反射分光測定により、多角的に議論する予定である。これらの測定により、キャリア数や移動度などのキャリアの性質だけでなく、状態密度や電荷ギャップの大きさなど電子バンド構造に関する多くの知見を得ることができる。また、本研究で示唆された磁場誘起絶縁体金属転移について調べるため、磁場下における輸送測定も検討する。多結晶での電子、磁気相図を作成したのち、興味深い組成での単結晶合成に挑戦する予定である。
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Research Products
(2 results)