2013 Fiscal Year Annual Research Report
スピン自由度を持った素励起の量子力学的スピン輸送現象・ホール効果の研究
Project/Area Number |
13J09588
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井手上 敏也 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 極性半導体 / スピン軌道相互作用 / 圧力効果 / 熱電効果 / マグノンホール効果 |
Research Abstract |
極性半導体BiTeIの圧力効果・熱電効果の研究を行った。圧力効果においては、スピン分裂したバンド構造に起因する二種類の周期を持つShubnikov-de Haas (SdH)振動の圧力効果を初めて観測し、振動周期の圧力依存性からトポロジカル相転移に関する情報を得た。輸送現象によって圧力誘起トポロジカル相転移の知見を得たのは本研究が初めてである。熱電効果に関しては、本物質の熱電効果のキャリア数・圧力依存性を系統的に研究し、ラシュバ型バンド構造のディラック点についての情報を得た。特にフェルミ面がディラック点上下に位置する試料においてネルンスト効果の符号が反転する様子が観測され、ネルンスト効果がラシュバ型バンド構造のディラック点に非常に敏感であり、フェルミ準位の位置を判断する良い指標となる可能性を示した。さらに、熱電効果における量子振動を初めて観測し、量子振動の位相を検討することにより、スピン分裂した内側・外側のフェルミ面起源の量子振動が異なる起源を有する可能性があることを明らかにした。これらBiTeIに関する成果は、極性半導体の輸送現象における新しい解釈を含むものであり、今後の半導体輸送現象研究における有用な手法となる可能性がある。 また、極性結晶構造を持つ磁性絶縁体(Zn_xFe_<1-x>)_2Mo_3O_8のスピン輸送現象を研究した。特に熱ホール効果測定を通して、本物質がフェリ磁性相及びメタ磁性相において巨大な熱ホール効果応答を示すことを明らかにした。強磁性絶縁体以外でのマグノンホール効果観測の初めての例であり、研究者が過去に研究したマグノンホール効果が磁性絶縁体において広く起こりうる可能性を示す重要な結果であると同時に、観測された熱ホール応答がこれまでに見つかっているいずれの物質よりも大きいことから、巨視的に結晶の対称性が破れていることとの関連性等、今後巨大なスピン輸送応答を得る指針が得られる可能性が期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ラシュバ系におけるスピン分裂したバンドを起源とする輸送現象に関して、トポロジカル相転移やバルクディラック点に関して、新しい視点からの理解が深く進んだ。また、マグノンホール効果が強磁性絶縁体に限らず磁性体で広く一般に起こる可能性を示し、巨大なスピン輸送現象観測に成功すると同時に、その機構解明に向けた指針を示した。
|
Strategy for Future Research Activity |
極性半導体BiTeIの圧力効果・熱電効果に関して、結果をそれぞれ論文としてまとめ、投稿する。 また、極性結晶構造を持つ磁性絶縁体(Zn_xFe_<1-x>)_2Mo_3O_8に関しては、引き続き研究を推進し、この物質における新規スピン輸送現象の研究・メカニズムの解明に取り組んでいく。さらに、他の様々な磁性秩序を示す絶縁体においても、非自明なスピン輸送現象観測を試みる。
|
Research Products
(3 results)