2014 Fiscal Year Annual Research Report
新奇体性幹細胞標識抗体A3の生物学的特性と毛の発生・病態における機能的役割の解明
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13J09632
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
加藤 智彩 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 体性幹細胞 / 毛包幹細胞 / 幹細胞認識抗体 / ラット / 上皮細胞分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
【実績内容】①成体の成長期毛包で,毛乳頭と隣接し,内根鞘もしくは毛幹に分化する上皮細胞がA3抗体に標識された.また,成長期の毛乳頭の間葉系細胞も一部弱陽性を示した.②ラット骨髄のA3標識細胞は,幹細胞マーカーCD90標識細胞と,隣接して発現していた.また他の幹細胞マーカーCD73とは連続切片において同部位で発現が観察された.血管マーカーRECA-1とは,大部分で共発現がみられたが,一致しない部分が少数認められた.③口腔から前胃の上皮細胞,胎盤構成細胞(一部の羊膜と連続する細胞・迷路層の血管内皮細胞・胎盤を支える部位の子宮内膜の一部の間質細胞),子宮間質,膣上皮においてA3標識細胞の発現が認められた.④悪性線維性組織球腫(MFH)由来細胞株MT-9をラットに移植した腫瘍組織を用いて,Western Blotting,二次元電気泳動及びLCMSによってA3タンパク同定を試みた.その結果、腫瘍組織のA3タンパクの分子量は,正常組織とは異なる大きさであった.【意義】①間葉系細胞とシグナル相互作用し,分化傾向を示す上皮細胞が,A3によって標識される可能性が示唆された.②骨髄のほとんどのA3標識細胞は血管内皮であることが分かった.血管内皮がA3に標識される意義および血管内皮以外の,骨髄A3標識細胞の特性については今後さらに詳細に調べる.⇒血管内皮の新たな特性の解明,および血管周囲の多能性幹細胞(Pericyte)の特性解明につながる.③全身の重層扁平上皮(特に口腔から前胃)において,基底細胞直上に存在する1層から2層の細胞がA3に標識された.これは,毛包成長期において細胞の分化の程度が高いのと同様に,口腔から前胃までの上皮はターンオーバーが高く,A3の特徴である,やや分化過程にある細胞を認識する可能性を支持する結果であった.④正常組織と腫瘍組織で,A3抗体が異なるタンパクを認識する,もしくはA3タンパクが異なったタンパク複合体を形成している可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A3が認識するタンパクの性状を解析する実験では,正常個体で発現するA3タンパクは,アルブミンとの類似性が認められた(A3抗体はアルブミンとも反応した).しかしアルブミン欠損ラットNARの組織について,ウエスタンブロッティングを行ったところ,アルブミンは検出されなかったが,A3タンパクの発現が認められた.さらに,NARのA3標識細胞の発現パターンは,F344のものと一致した.よって、NARの組織を用いて,A3タンパクの分子生物学的および組織学的発現部位の特異性の検索を行った. 分子生物学的検査では,正常個体が発現するA3タンパクの分子量(約25,50,150 kDa)と,ラットMFH由来細胞株MT-9をラットに接種し誘発させた腫瘍組織のA3タンパクの分子量(約100 kDa)が異なることが分かった.A3タンパクはミクロソーム分画に多く含まれることから、A3タンパクの回収率の向上を目的として免疫沈降をさらに進めている.また,ミクロソーム分画をサンプルとし,二次元電気泳動・LCMSによるA3タンパク分離同定を行っている. これまでにNARの胎子および成体における,全身諸臓器・部位におけるA3標識細胞の発現分布を明らかにした.A3標識細胞は,心臓および血管の内皮,血管周皮などの血管構成細胞,また神経周皮細胞や髄膜に発現している.また,皮膚及び毛包の発生過程と,成体正常毛周期(Anagen,Catagen,Telogen)での発現やF344成体の皮膚創傷治癒におけるA3標識細胞の発現分布・特性を解析つつある.これらの結果から,A3標識細胞は,未分化な性質を持つ上皮および間葉系細胞であることが示唆された.またフローサイトメーターを用いて,食道上皮,骨髄からA3標識細胞の分離を試みている. このように、当初の目的に沿って実験や解析が進んでいることから、「おおむね順調に進んでいる」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
【推進方策】組織学的検索では,創傷治癒モデルと脱毛・無毛ミュータントを用いたA3標識細胞の特異的発現細胞の分布について詳細な解析を行う.この動物実験では,さらにフローサイトメーターを用いて,A3発現細胞を特異的に分離し,その細胞特性を試験管内で解析する予定である.分子学的解析では,A3タンパクのアミノ酸配列を決定し,その機能的な特性を明らかにする.A3タンパクを同定すれば,ラット以外の動物での相同性を調べ,それぞれの動物でのA3タンパクに対するリコンビナント抗体を作製し,異なる動物種間の組織でA3により標識される細胞の特性を解析する.以上の成績に基づいて,個体発生に係わるA3タンパクの役割を解明する.【問題点】A3タンパクの同定が進んでいない理由として、二次元電気泳動での問題点がある.これは,スポットの分離と検出に,再現性のある結果が出ないことと考えている.また免疫沈降での問題点は,A3抗体とタンパクが乖離してしまうことである.問題点解決のために,二次元電気泳動では,サンプル中に含まれるA3タンパクの含有率が低いので、その回収率を上げるためMT-9誘発腫瘍を用いて多くのA3タンパク回収する方法を検討している.また,免疫沈降では,A3抗体とタンパクとの親和性が低いことが原因と考えられることから,新たなキットを購入し,クロスリンク法を用いてA3タンパクの回収を試みる予定である.
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