2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J09714
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 一弘 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | コンヴェンション / ヒューム / デイヴィッド・ルイス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、社会的・共同体的な慣習ないし規約としてのコンヴェンションの概念を、哲学的な見地から分析することである。二年目となる平成26年度は、第一に、前年度に行なったデイヴィッド・ヒュームの知性論とくに信念論に関する基礎的研究成果を踏まえつつ、さらに情念論と道徳論にも検討の範囲を広げて、ヒュームのコンヴェンション概念のより包括的な研究をおこなった。また第二に、デイヴィッド・ルイスによるコンヴェンション概念の分析を中心に、それ以降現代にいたるまでの、社会的慣習をめぐる哲学的検討の議論状況を整理した。以下にそれぞれの具体的な研究内容について述べる。 まずヒュームについては以下の通りである。ヒュームにおいて「(人々の間での)共通する利益の一般的な感覚」と定義されるコンヴェンションは、各人の自己利益にもとづく行動からどのようにして正義の諸規則が立てられるかを説明する際に導入されるものであった。この点に、道徳心の発達に重要なのは一般規則と共感であるという彼の見解を考えあわせれば、コンヴェンションの理解には、少なくとも、(事実についての判断も道徳的な判断も含めた)判断全般にかかわる<一般規則>と、感情のレベルでの他者に対する<共感>、そして(正義という人為的な徳を含む)<徳>についてのヒュームの見解を踏まえる必要がある。本研究ではこれら三つ組の概念を、ヒュームの主著『人間本性論』全三巻(知性論・情念論・道徳論)を統一的に解釈する鍵として捉え、その理論的な相互関係を検討した。 第二に、ルイスについては、Lewis(1969)で展開された分析をヒュームによるものと適宜比較しながら検討する作業を行なった。またルイス以降の展開を確認するため、現代の規範倫理学や社会科学の哲学において「コンヴェンション」といわゆる「規範」との関係がどのように論じられているかを整理し、検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、本年度はルイスの議論にほぼ集中して研究を進めることにしており、もし実際にそうしていればルイスのコンヴェンション概念に関しても論文などの具体的な成果にまでつながっていたと思われる。しかしこれを次年度に見送らざるをえなかった理由は、本年度より新たに科学研究費の支援を受けて開始したもうひとつの研究課題「徳認識論と徳倫理学:「徳(virtue)概念のヒューム的再構成」から得られたヒューム哲学に関する多くの知見を本研究にも反映させ、両研究課題の相乗効果を最大にするためであった。実際、そうすることによってヒュームのコンヴェンション概念についても当初の期待を超えて詳細な分析が可能になり、来年度に行なう予定のヒュームとルイスの理論の比較検討についても良い見通しが得られた。それゆえ全体として本研究は順調に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度はまず前半で引き続きルイスのコンヴェンションについて研究を行い、後半では現代の社会科学の哲学におけるコンヴェンション研究の議論状況も踏まえつつ、ヒュームとルイスの理論を比較検討していく。
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Research Products
(5 results)