2013 Fiscal Year Annual Research Report
1840年代ロシアにおけるユートピア希求の諸相-ペトラシェフツィの詩と散文の分析
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13J09753
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 知之 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | プレシチェーエフ / ペトラシェフスキー・サークル |
Research Abstract |
本研究は、ペトラシェフスキー・サークルに関わりのあった作家たちを対象としている。このサークルは、ユートピア社会主義者ペストラシェフスキーを中心に結成された青年知識人たちの集まりで、若き日のドストエフスキーなど、多くの新進作家たちが参加していた。ペトラシェフスキー・サークルは文学的グループであり、同時に政治的グループでもあった。メンバーたちは、「言葉」(文学的テクスト)と「行動」(サークルでの活動)の両面において、自らの時代の問題に応えようとした。抑圧された状況にあって、彼らは言葉と行動の双方を動員しながち、外の世界との調和的関係(=ユートピア)を求めていったのである。しかし、言うまでもなく、これは極めて困難な探求である。個人と外界の間には決定的な不調和がある(そしてユートピアが現実となることはない)。また、一個人における言葉と行動の関係も、一筋縄でいくものではない。状況・言葉・行動の間には、複雑な相互作用の関係がある。 本研究は、それぞれに特徴的な作家を取り上げ、芸術と実生活にまたがるユートピア探求の試みを対比的に描き出すことで、1840年代文学史の描かれざる一局面を明らかにすることを目的としている。 本年度は、とくに詩人プレシチェーエフの研究に取り組んだ。プレシチェーエフは、自らの詩で提示した「預言者」というあるべきユートピアン像に自らを同化させ、現実においてもその役割を演じていった。サークルという限られた共同体のなかで、「預言者」を自作自演することで、言葉と行動を統合する仮面をまとうことに成功したのである。この研究は、「プレシチェーエフの青春――ペトラシェフスキー・サークルにおける『預言者』」と題した論文にまとめられ、日本ロシア文学会の機関誌『ロシア語ロシア文学研究』第45号に発表された。プレシチェーエフを扱った日本で最初の学術論文として意義のあるものと自負している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1840年代における詩人プレシチェーエフの軌跡に関しては、独自の視点からまとめることができたと考えている。しかし、ドストエフスキーとの関係など、論じ切れていない重要な論点も多い。また、対象となる他の作家、アポロン・グリゴーリエフなどに関しても、テクスト分析、および構想の段階にとどまっており、論文にまとめられる段階には達していない。したがって、②の評価区分とした。
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Strategy for Future Research Activity |
ドストエフスキーとの関係を軸に、プレシチェーエフの散文作品の研究を進める。それによって、より複眼的な視点から、プレシチェーエフの青春を捉え直すことができると考える。また、対象となる他の作家たちの研究も進める。特に、アポロン・グリゴーリエフの研究は重要となる。ペトラシェフスキー・サークルと関わりを持ちながらも、真剣なメンバーになることのなかったグリゴーリエフの軌跡を追うことで、プレシチェーエフとは相違なるユートピア希求のありようを浮き彫りにできると考える。
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Research Products
(1 results)