2014 Fiscal Year Annual Research Report
サテライトモデルを用いた、線虫の重力認識機構および長期生存機構の解明
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13J09930
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
田中 龍聖 宮崎大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | Caenorhabditis japonica / 線虫の長期生存機構 / 線虫の宿主探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度(平成25年度)は、線虫C. japonicaの重力認識時、昆虫付着時(長期生存時)、の生理状態を明らかにするために、RNAseq法およびRNAi法を用いて、それぞれの状態で発現している遺伝子の同定および機能解析を試みた。しかし、C.japonicaは雌雄異体であり、データベースのゲノムの質も悪いため、これらの解析に困難をきたした。 そこで、本年度は、昆虫に便乗する線虫では最もゲノムの質がよく、RNAi法やCRISPR法の有用性が確認されているPristionchus pacificusを用いて、重力認識機構および長期生存機構の解明を試みた。はじめに、P. pacificusの104種類の株について、重力認識機構の有無および宿主昆虫への便乗の詳細を調べた。その結果、重力認識機構については、C. japonicaのような機構を持たないことが明らかとなった。また、宿主昆虫への人為的な便乗を試みたところ、1頭の宿主昆虫に20,000頭のP. pacificusを接種しても、0から10頭程度しか便乗しなかった。この要因を明らかにするため、P. pacificusの宿主への化学走性を調べたところ、P. pacificusは宿主への化学走性を示さなかった。これらのことから、P. pacificusは、昆虫便乗に特化したC.japonicaとは異なり、野外では偶発的に昆虫に便乗するような生活史も持っていることが示唆された。これは、特異的、積極的にカメムシに便乗するC.japonicaとは大きく異なる点である。しかし、0-10頭程度と少ないものの人為的に昆虫に便乗させることができたため、大量の宿主に大量のP. pacificusを便乗させれば、RNAseq法による発現遺伝子の解析は可能であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、昆虫に便乗する線虫が、宿主昆虫探索時に重力認識行動を示し、宿主昆虫に便乗後は長期生存することを利用し、線虫の重力認識機構および長期生存機構の解明を目的としている。 これまでに、C. japonicaの長期生存時、重力認識時の発現遺伝子のデータを得ることができた。一方、C. japonicaのゲノムデータベースの質が悪いことにより、これらのデータを十分に活用できていない。そこで、C. japonicaのゲノムデータベースの質を向上し研究を進めていくことが、今後の主な方針である。この点については当初予想していたよりも若干研究の進行が遅れている。 本研究では、昆虫便乗時(長期生存時)の生理状態を明らかにするための新たな材料として、P. pacificusに可能性を見出した。P. pacificusはゲノムデータベースの質が良く、遺伝子改変技術(CRISPAR法など)の有用性が示されている線虫である。P. pacificusにおいても、効率は悪いものの、C. japonicaのように人為的に昆虫に便乗させることができた。そこで、今後はC. japonicaだけでなく、P. pacificusも用いて、線虫の長期生存機構の解明を目指す。この点は新たな展開として評価できる。 また、重力認識行動の有無をP. pacificusで調べたところ、P. pacificusは重力認識を示さなかったため、この行動はC. japonica特異的なものである可能性が示唆された。そこで、重力認識機構の解明については、今後C. japonicaのみを用いて行っていく。この点については、若干の研究進行の遅れが見られる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、C.japonicaのゲノムデータベースの質が悪いことにより、発現遺伝子解析に困難をきたした。これまでの結果を踏まえ、本年度は、二つの方向性で本研究の完成を目指す。①C.japonicaのゲノムを自身で再解読し、良質なゲノム配列を得たのち、RNAi法以外の方法(具体的にはCRISPR法)で遺伝子機能の解析を行う。②P. pacificusを大量の宿主に大量に接種し、RNAseq法で解析する。 ①については、兄妹交配により遺伝的に均一は株を作成したため、その株のゲノムを再解読する。この結果を元にしてゲノムデータベースを再構築し、これまでに得られた、C. japonicaの長期生存時、重力認識時のRNAseq法のデータの精度を高める。えられた遺伝子情報から有力な遺伝子について、CRISPAR法によりその遺伝子の機能解析を行う。 ②については、P. pacificusを用いて、多数の宿主昆虫に多数のP. pacificusを便乗させ、RNAseq法により宿主便乗時の発現遺伝子を調べる。(宿主1頭あたりの便乗線虫数は少ないものの人為的に昆虫に便乗させることができたため大量の宿主に大量のP. pacificusを便乗させれば、RNAseq法による発現遺伝子の解析は可能であると考えられる。) 得られた遺伝子群の情報から、有用な遺伝子についてC. japonica同様にCRISPAR法で遺伝子の機能解析を行う。 また、本年度が本研究の最終年度となるため、これまで得られた実験結果を元に論文および学会発表としてまとめる。
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Research Products
(6 results)
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[Book] 線虫学実験2014
Author(s)
水久保隆之・二井一禎 編
Total Pages
324(田中は12ページ分を担当)
Publisher
京都大学学術出版会