2014 Fiscal Year Annual Research Report
新規数理モデルによるらせん高分子高次構造体の光学活性反転現象の機構解明
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13J10001
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
鈴木 望 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | らせん / 光学活性 / 凝集体 / 高分子 / 数理モデル / 計算化学 / キラル |
Outline of Annual Research Achievements |
背景) 分子、高分子、ナノ粒子などの物質が溶液で互いにどの様に相互作用するかを明らかにすることはタンパク質と薬の相互作用、ナノ粒子が形成する高次構造体、触媒の反応機構、高分子集合体を含む分子・高分子の超分子構造体を理解するのに重要なテーマである。本研究においてはDNAに代表されるらせん構造を有する人工高分子に着目し、らせんの集積体の高次構造が各らせんの直径や周期に依存して反転することを報告している。これらの高次構造の反転現象は光の右円偏光・左円偏光の吸収の差(光学活性)にも影響を及ぼすことから、温度・光・溶媒などの刺激に応答して高次構造を変化させる様な分子設計が出来れば、次世代のスイッチ・メモリ・センサーデバイスなどへの応用が可能ではないかと期待されている。
研究実施計画) 本研究ではこれまでらせん構造を有する分子のモデル化と数理モデルによる光学活性の反転現象の解明に取り組んできた。数理モデルでは分子を剛直ならせんの形に近似するという、比較的単純なモデルであるのにも関わらず、らせんの直径に依存した光学活性の反転現象を説明する実験結果の定性的な説明ができた。しかし、溶媒効果による光学活性の反転現象の説明が難しい点、分子が集積する前後で構造が変化しない剛直な構造であることを仮定しているなどの理由から、分子力学法・分子動力学法を用いたアプローチの確立に取り組んでいる。これにより、剛直な分子であることを想定することなく、より一般的な柔軟な立体構造を有する分子間の相互作用や、集積体を形成した後に引き起こされる構造変化についても議論が可能になると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展していると考える理由として、問題と解決法が明確であること、現在取り組んでいるパラメータの最適化については順調に進んでいることなどが理由として挙げられる。 1. 問題と解決法 (問題点1)一般に、分子間の相互作用を考える際には二種類の自由度を考慮する必要がありこれらを網羅する必要性がある。一つの自由度は(i)分子内結合角の回転に依存した立体配座の自由度、もう一つは(ii)二分子間の位置関係を決定する自由度である。(問題点2)分子間相互作用をシミュレーションする代表的な手法の一つに分子動力学法(MD)がある。しかし、分子の並進運動を網羅するためには計算コストが高く、探索可能な時間範囲は数十nsにとどまる事が殆どである。(解決法1)分子力学の立体配座探索を用い、各分子の安定な立体配座を得ることで(問題1-i)の自由度を考慮する。(解決法2)分子1の向き(θ,φ)と分子2の向き(θ',φ')を変数とし、分子の距離(r)を一定の値にした時の二分子の位置関係をグリッド化し、各条件(θ,φ,θ',φ')でMDを行うことで、並進運動による空間的な二分子の位置関係の場合を考慮する。これにより(問題点1-ii)の自由度も加味しつつMDのシミュレーション時間の問題を解決することが可能である。 2. パラメーターの最適化 分子力学法・分子動力学法を用いるのには各原子のパラメーター(今回の場合は結合長、結合角、二面角の値と力定数の決定)が必要となる。本研究で用いている分子はケイ素を含み、ケイ素原子に関わる分子のパラメーターは十分に確立されているとは言えない。現在は量子力学法から得られたモデル分子の構造・振動子計算を元に、パラメーターの最適化を行うためのプログラム作製に取り組んでおり、結合長、結合角の値を最適化する事に成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
1. パラメーターの最適化 パラメーターの最適化の判断基準に振動数も加え、力の定数も最適化したい。力の定数は分子振動における振動数に関連したパラメータであり、これを加味して配座検索することは特に熱力学的な値であるエンタルピーやエントロピーを見積もるのに重要である。特にエントロピーは温度依存的な立体配座や高次構造の変化を見積もる上で重要な物性値である。しかしながら、振動数を加味した最適化を量子化学計算の結果に合う様にフィッティングするためには、各振動を比較し、帰属する必要がある。まずはこの帰属が精度良く出来る様にプログラムを作製する。 2. シミュレーションの実施 従来のモデルの問題点として溶媒効果による光学活性の反転現象の説明が難しい点、分子が集積する前後で構造が変化しない剛直な構造であることを仮定しているなどを挙げたが、これを解決するためには、溶媒を含めたMDシミュレーションを行い、平衡状態に達した際のエネルギーから、高次構造体形成前後の構造変化を見積もる事が必要になる。パラメーターを最適化した後、得られたパラメーターを用いてMDシミュレーションを行う。得られたシミュレーション結果が実験結果を説明する事を確かめ、とりやすい構造を数値化する予定である。
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Research Products
(4 results)