2013 Fiscal Year Annual Research Report
中世ネパール仏教説話研究-後期アヴァダーナ文献の史的展開とその大乗思想の考察-
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13J10048
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
山崎 一穂 東洋大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | アショーカ・アヴァダーナ・マーラー / ウパグプタ / クシェーメーンドラ / アヴァダーナ・カルパラター / アショーカ / 阿育王経 / 大乗思想 / 中世インド |
Research Abstract |
本年度は後期アヴァダーナ文献『アショーカ・アヴァダーナ・マーラー』(AAv-m)における大乗思想の考察という研究目的に主眼を置き、同文献第二章「ウパグプタ」所収の物語「ヴァーサヴァダッターの教化」を研究対象とし、そこに見られる大乗思想の性格を明らかにすることを第一課題とした。また第二課題として同章の説話材源の一つであるクシェーメーンドラ(11世紀)『アヴァダーナ・カルパラター』(Av-klp)第72章「ウパグプタ」の並行箇所の成立史・作者クシェーメーンドラの著作姿勢の解明を目標とした。具体的な研究成果は次の通りである。(1)AAv-m所収「ヴァーサヴァダッターの教化」は説話作品としての洗練度は低いものの、物語中には菩提行の習修、陀羅尼の読誦、三輪の清浄など大乗仏典に顕著な思想的要素が見出され、説話という媒体を用い一般大衆に大乗仏教を布教する意図が明確に読み取られ得る。(2)Av-klpの並行話の材源は漢訳『阿育王経』の祖形とされる散逸した梵本に求められ得、作者クシェーメーンドラはこれを九世紀の詩論家アーナンダヴァルダナが提唱した「情の暗示」の理論に従って敷衍し文学作品として洗練させる著作姿勢をとっていたことが確認され得る。(1)で得られた成果により、AAv-mにおける大乗思想の問題の一端が解明された。またその成果は中世インド及びその周縁地域における後期アヴァダーナ文献の史的展開を研究する上での有益な資料となった。更に(2)により11世紀北インドにおけるアショーカ王伝説の伝承史、同地域における仏教詩人の文学嗜好が明らかにされた。以上の成果は今後の仏教説話文学史の解明に大きく寄与するものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
後期アヴァダーナ文献に見られる大乗思想の解明という基本課題の達成度は概ね順調に進展している。しかし写本からのテキストの校訂には最新の仏教梵語研究の成果を取り入れる必要があることが研究の遂行課程で判明した。また『アヴァダーナ・カルパラター』からの詩節借用部については、引用元である同作品の並行箇所のテキスト校訂を併せて行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
後期アヴァダーナ文献『アショーカ・アヴァダーナ・マーラー』のテキストの確定、説話材源の大乗的改作という問題を扱う上では、同作品の材源の一つである『アヴァダーナ・カルパラター』のテキスト校訂作業と材源問題の検討を同時並行して行う必要がある。対応策としては『アヴァダーナ・カルパラター』の『アショーカ・アヴァダーナ・マーラー』に並行する箇所に対する校訂作業を早急に完成させることが挙げられる。また『アヴァダーナ・カルパラター』の材源問題については仏教文献の並行箇所のみならず、九世紀から11世紀にかけての古典梵語文学作品を視野に入れ、作詩法、統語論等に基づいて一層緻密な検討を行うことも研究推進の対策となる。
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Research Products
(5 results)