2013 Fiscal Year Annual Research Report
がん細胞の不均一性からみた、双方向的EMT制御系による悪性化基盤形成機構の解明
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13J10159
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
加藤 真一郎 富山大学, 医学薬学教育部, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 上皮間葉転換 / がん細胞の不均一性 / 細胞間相互作用 / WNT / 転移 / 浸潤 |
Research Abstract |
腫瘍悪性化の最大の特徴である転移には、上皮間葉転換(epithelial-to-mesenchymal transition : EMT)と呼ばれるプロセスが密接に関わっている。腫瘍内部におけるEMTの誘導は空間的に不均一であり、結果として異なった表現型を有する不均一ながん細胞集団を生み出すという側面を持っていることから、EMTはがん細胞に浸潤能を充進させるだけではなく、周辺のがん細胞と協調して腫瘍悪性化に関わる可能性が考えられる。本研究課題は、EMTによって生み出されるがん細胞の不均一性が持つ腫瘍生物学的な役割の解明を目指し、それに基づく新規がん転移治療コンセプトの提案を目的としている。 平成25年度は、「EMTを起こしたがん細胞(M-cell)」と「EMTを起こしていないがん細胞(E-cell)」の間の相互作用に注目し、TGF-β刺激によってEMTを誘導したA549(ヒト肺癌細胞株)およびPanc-1(ヒト膵癌細胞株)をM-cell、ならびにそれぞれの未処理細胞をE-cellとして共培養実験を行った。その結果、M-cellとの共培養によってE-cellの浸潤能・転移能が亢進されることを明らかにした。さらにM-cellにおいて発現・分泌亢進されている分子をcDNAマイクロアレイ、Gene Set Enrichment Analysisによって推定し、その因子としてWNT3、WNT5BがE-cellにEMTの誘導、浸潤・転移能の充進に寄与することを同定した。また、M-cellにおけるWNT3およびWNT5Bの発現上昇メカニズムが、mRNAの安定化に起因するものであることを明らかにした。 以上の結果は、EMTによって生み出される不均一な細胞間の相互作用の一端を明らかにするとともに、不均一ながん細胞間の細胞間相互作用が治療標的の一つになりうることを堤案できたものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的に掲げた「EMTを起こしたがん細胞」と「EMTを起こしていないがん細胞」間の細胞間相互作用が両細胞のEMT表現型に及ぼす影響に関して一定の成果を上げており、申請時当初に仮定した『EMTによるEMT/METの制御』を提唱する上で重要な知見も得ている。平成26年度の研究計画に組み込まれているMET誘導因子は、研究課題名にも含まれる『双方向性』を特徴付ける極めて重要な分子であるが、その候補分子の同定もほぼ終えているため本年度も更なる研究の進展が見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に得られた研究成果をより普遍的な現象として提唱するために、他のサイトカイン(EGFなど)、環境因子(低酸素、低pHなど)誘導性EMTモデル、もしくはGenetic/Epigeneticに間葉系表現型を有するがん細胞株を用いた共培養実験を行う。また、臨床的に腫瘍組織内部では上皮系および間葉系がん細胞が混在しており、M-cellよって一方向的にEMTのみが誘導されているとは考えにくい。次年度は、E-、M-cellが共存することによるM-cellのEMTに対する影響にも注目し、機序の解析を行う。E-、M-cell間の双方向的なEMT制御機構を理解することによって、腫瘍組織内部そしてがん転移過程における動的なEMT制御機構の全容解明を目指す。
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Research Products
(5 results)