2014 Fiscal Year Annual Research Report
19~20世紀初頭にかけてのイギリス人の世界認識とイギリス海軍の関係について
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13J10178
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邊 公夫 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ベッテルハイム研究 / 近代沖縄社会 / 宣教師研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
●研究成果 申請者の研究は、琉球海軍伝道会というイギリス海軍軍人が運営する民間の宣教団体が派遣した、イギリス人宣教師ベッテルハイムについての研究である。申請者は、ベッテルハイムの19世紀半ばの琉球王国における活動について、彼の日記を使用して実証的に分析した。そして、彼の後世に及ぼした影響として、20世紀前半の沖縄社会において彼の業績が沖縄の「文明化」の第一歩として顕彰された事例を発見し、その顕彰運動も分析の対象とした。その結果、ベッテルハイムの顕彰は、当時の近代沖縄が置かれた社会的状況から導出されたものだということが明らかになった。 さらに、申請者は、ベッテルハイムの琉球王国における宣教活動と、その沖縄社会における表象のあり方を分析するなかで、20世紀初頭から1920年頃まで沖縄においてキリスト教の布教活動に従事したメソジスト宣教師のアメリカ人牧師E・R・ブルが果たした役割の大きさに気づいた。彼は、外国人であるにもかかわらず、沖縄社会においてベッテルハイムによる琉球王国宣教活動の顕彰運動を主導した。それは、彼が当時の沖縄社会を覆う知識人ネットワークに参画していたから可能だったことである。さらに、彼の交友関係の輪の中には、当時の沖縄を代表する実業家であった太田朝敷もいた。ブルは、太田が経営していた、琉球新報や沖縄タイムスに、ベッテルハイムを顕彰することを目的とした記事を連載していた。この事例は、ブルが当時の沖縄の言論界に、直接的に影響を及ぼすことが出来たことを示す。 ブルのこの事例は、近代日本の帝国的周縁部と本土の関係を象徴的に示すものである。すなわち、帝国的周縁部では、日本の「文明的優越性」に基づく一方的支配の正当性を相対化するために、欧米人宣教師たちの「文明化(=西洋化)の使命」を主体的に受け入れ、日本本土の「文明性」の相対化を図ったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題は、現時点では、近代日本帝国の周縁部における欧米人キリスト教宣教師のイメージの変化と受容から、当時の日本帝国周縁部における「文明化」の実態を明らかにすることである。 ベッテルハイムの琉球王国宣教活動は、沖縄人にとって、沖縄の「文明化」にまつわる記憶として表象されたことが現在までの研究で明らかになっている。すなわち、イギリス帝国の「文明化の使命」を携えたベッテルハイムを顕彰することで、日本の本土の「文明的優越性」を相対化し、沖縄人の自立性を精神的に確立しようとする試みがベッテルハイム顕彰運動だったのである。 ベッテルハイムの顕彰運動それ自体にもアメリカ人宣教師が関わっていることは、研究実績に言及した通りであり、日本の帝国的周縁地域の主要な地域の一つである沖縄における「文明化」と宣教師受容のあり方についての分析には一定の成果があげられたと考えられる。 さらに、近代沖縄の事例が北海道や台湾、朝鮮半島の日本帝国のもとでの近代化の事例と比較可能であるという新たな知見も得られた。これは、日本帝国の周縁部と、イギリスをはじめとする欧米列強の帝国拡張の先端部における交流の事例として捉えられる。 以上から、申請者のこれまでの研究はおおむね順調に推移しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
●今後の研究課題 日本の帝国的周縁部の他の地域、すなわち北海道や台湾、朝鮮半島における事例を参照する必要がある。具体的には、北海道開拓事業におけるクラーク博士の業績のイメージ、台湾におけるスコットランドやカナダの宣教団体によるミッションスクールのイメージである。朝鮮半島では独立運動に欧米人宣教師が関わっていたことが明らかになっている。これらの事例を、ここに分析し、沖縄の事例と比較する。 ●今後の研究の推進方策 北海道大学の図書館やアメリカ議会図書館等にある、クラーク博士に関する史料や、韓国の延世大学にあるアレン牧師の史料、エディンバラ大学にある宣教団体史料を参照する。
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Research Products
(1 results)