2013 Fiscal Year Annual Research Report
近代ロシア文学の成立にみるドイツ的表象とその変容-留学生がもたらしたもの-
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13J10198
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金沢 友緒 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | O. Pコゾダヴレフ / ゲーテ / ドイツ留学 / 啓蒙思想 / ロシア・センチメンタリズム / エカチェリーナ2世 |
Research Abstract |
本研究の課題は近代ロシア文学成立の初期である18世紀後半から19世紀初頭に外国文化が果たした役割、特にロシアの文化人の知的発展の拠り所であったドイッ文学、文化の役割を明らかにすることである。具体的にはロシア人エリートが移入したドイツの作品とその文化的諸表象がロシア文学に与えた影響と、その表象が遂げた変容について注目する。 今年度は、当時エカチェリーナ2世自らが選定したドイツ派遣留学生の1人で、ドイツ文化の移入に重要な役割を担っていたо. п. コゾダヴレフに注目し、ロシアのサンクト・ペテルブルグに滞在し、ロシア文学研究所で関連情報を収集しながら、彼のドイツ留学、および帰国後の文学活動について資料の調査と考察を行った。 彼のライプツィヒ留学からの帰還後の活動を明らかにするための作業として、まず、彼によるゲーテの悲劇『クラヴィーゴ』の翻訳をとりあげた。これはロシアで最初のゲーテ作品の翻訳であり、ロシア文学史上重要な位置を占めているにもかかわらず、従来の研究では翻訳された事情、背景についての考察がほとんどなされておらず、コゾダヴレフの文学活動についての理解も表層的なものに留まっていた。そこで、本研究では訳者コゾダヴレフのドイツ留学経験者という立場、および『クラヴィーゴ』の作者であるゲーテの西欧文化に対する視点をあわせて分析し、コゾダヴレフのゲーテ理解と『クラヴィーゴ』翻訳の意図を明らかにした。その結果、彼の『クラヴィーゴ』翻訳は当時の知的エリートの西欧観を理解する上で有効な手がかりであることもわかった。 その後のコゾダヴレフの文学活動として、女帝等と共に編集にも携わっていた雑誌《ロシア語愛好家の語り相手》の中の彼の作品を取り上げ、当時の主な文学思潮であるロシア・センチメンタリズムの作品との比較を通して、彼の文学的発想の特徴を明らかにした。以上の作業を通して得られた成果について、3つの学会にて研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所属機関、国立図書館及び歴史資料館等で文献を閲覧し、当初予定していた資料調査と分析を達成したので。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、既に着手している、コゾダヴレフによって発行された新聞《北方郵便》(1809-1819)の調査を継続して行う予定である。この新聞は、コゾダヴレフが西欧の様々な新聞を踏まえて作りあげたものであり、西欧諸国の記事が数多く掲載されている。現在は、この新聞が備えていた「文学的な性質」に注目しつつ、同時に19世紀初頭に行われた政府による教育改革、祖国戦争の影響等も考慮しながら、記事を調査しているところである。 なお、来年度には、留学生コゾダヴレフに先んじてライプツィヒへ留学していたラジーシチェフ、クトゥーゾフ等、他の知的エリート達の文学活動についても詳細に取り上げたいと考えている。
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Research Products
(4 results)