2014 Fiscal Year Annual Research Report
学習の臨界期を調節する分子の探索と、臨界期を制御可能なモデル動物の開発
Project/Area Number |
13J10484
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
中森 智啓 北里大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 神経可塑性 / 刷込み行動 / 幼児期学習 / 臨界期 |
Outline of Annual Research Achievements |
臨界期における学習に重要な分子を探索し、臨界期を制御可能なモデル動物の作成を目指すことが本研究の目的である。当該年度は、DNAマイクロアレイを用いて刷込みの臨界期に重要な遺伝子の探索を行い、またリアルタイムPCR法やin situ hybridization法によって、遺伝子の発現量の発育に伴う変化や発現細胞・領域の特定を行った。その結果、刷込み学習の獲得の際に重要な働きを持つ脳領域に特異的に発現が観察できた遺伝子の幾つかは、刷込みの臨界期中での発現量が臨界期終了後における発現量よりも有意に高く、それらの遺伝子は臨界期の制御機構に重要な役割を持つ可能性が示唆された。 脳神経系における重要な神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体の1種であるNMDA受容体のサブタイプにNR2Bがあり、NR2Bは刷込みの臨界期中における発現量が臨界期終了以降よりも高い。阻害剤を脳に注入する方法でNR2B受容体の活動を阻害した場合、刷込みの成立が起こらなくなった。また、NR2Bの発現量を増加させると刷り込みの効率が上昇した。刷込みの成立の際には、脳の視覚野の興奮性神経細胞において長期増強現象(LTP)が起こり、このLTP発生にはシナプス後部の膜表面におけるNR2Bの増加が必要であることが分かった。また、NR2Bのシナプス膜表面における発現量は、NR2B自身の活動によって制御されていた。刷込み刺激によって、NR2Bの活動を介してNR2Bのシナプスでの発現を増加させ、特定の神経細胞においてLTPを発生させやすくなっていると見なすことができ、これが幼児期の高い神経可塑性や学習効率の重要な神経メカニズムの1つであると考えられた。以上の結果をまとめ、(Nakamori et al., 2015, J Neurochem.)において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、幼児期における学習時に活動した神経細胞において、学習の成立に重要な働きを持つ遺伝子を探索すること、また幼児期学習の臨界期の発現に重要な遺伝子を探索することを目的をしていた。当該年度までに、DNAマイクロアレイやリアルタイムPCR法による遺伝子の発現量解析の他、in situ hybridization法を用いた遺伝子発現分布の解析を行い、刷込み学習の成立時に重要な働きを持つ視覚野の神経細胞において、発育依存的に発現量が変化し、かつ学習によっても発現量が変化するいくつかの遺伝子をピックアップした。 また、グルタミン酸の受容体の1種であるNMDA受容体のサブタイプのNR2Bは、刷込みの臨界期中における発現量が臨界期終了以降よりも高い。阻害剤を脳に注入する方法でNR2B受容体の活動を阻害した場合、刷込みの成立が起こらなくなった。また、NR2Bの発現量を増加させると刷り込みの効率が上昇した。刷込みの成立の際には、脳の視覚野の興奮性神経細胞において長期増強現象(LTP)が起こり、このLTP発生にはシナプス後部の膜表面におけるNR2Bの増加が必要であることが分かった。また、NR2Bのシナプス膜表面における発現量は、NR2B自身の活動によって制御されていた。刷込み刺激によって、NR2Bの活動を介してNR2Bのシナプスでの発現を増加させ、特定の神経細胞においてLTPを発生させやすくなっていると見なすことができ、これが幼児期の高い神経可塑性や学習効率の重要な神経メカニズムの1つであると考えられた。以上の結果をまとめ、(Nakamori et al., 2015, J Neurochem.)において発表した。 以上から、本研究課題は当初の計画以上で進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって刷込み学習の臨界期の発現に重要な遺伝子及び、刷込み学習の成立時に重要な働きを持つ遺伝子の探索によって、候補遺伝子が数種に絞られた。今後は、候補遺伝子の発現量を変化させた場合、もしくはその遺伝子がコードしているタンパク質の機能性を薬剤投与等によって変化させた場合、刷込み学習の効率や、その臨界期の期間などにどのような影響が出るのかを調べる必要がある。また、特定された遺伝子の発現が、神経活動性やNMDA受容体の活性、神経可塑性、及び細胞の形態にどのような影響を与えるのかを調べる。臨界期終了後に可塑性を高めることを目的として導入する遺伝子は、常時発現しているよりも臨界期終了後に発現を増加できるシステムを用いた方が、解析が簡便である。臨界期中における導入遺伝子の働きを除外視できるからである。そこで、テトラサイクリン誘導発現系(Tet-Onシステム)を用いて、時期特異的な遺伝子発現の調節を行う。孵化したchickを非刷り込み条件で臨界期終了後であるP5まで飼育し、以降2日間はDox含有水を与える。P7において、目的の遺伝子・タンパク質発現の有無を組織学的に調べる。また、導入した遺伝子の発現によって刷り込みや識別学習等の視覚的学習の効率や、神経細胞の活動性・可塑性が上昇するかどうかを、行動学的、電気生理学的に調べる。遺伝子の導入効率が悪い場合は、ウイルスベクターを用いた導入の方法を検討する。
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Research Products
(6 results)