2013 Fiscal Year Annual Research Report
水の特性を活用する新たな有機化学の創造-人工酵素を志向した高機能触媒の開発-
Project/Area Number |
13J10509
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北之園 拓 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 水 / 不斉反応 / 不均一系触媒 / 向山アルドール / 共役付加 / 鉄 / 銅 / ビスマス |
Research Abstract |
水中で金属錯体を安定化させるには多座配位の活用がエントロピー的に有利であるものの、金属中心への電子供与はLewis酸性の低下にも繋がりかねない。そこで平面的な多座配位によって中心金属のd軌道、特にd_z2軌道を制御する事が水存在下での不斉反応の鍵となると考えた。xy方向での混成に加えd_z2軌道と配位子自身のs, p_z軌道との混成、また添加物の配位を通じたz軸方向のエネルギー準位安定化を期待した結果、ビピリジン配住子とLewis酸、添加物から構成される三種類の触媒系を開発し、これまでになく幅広い基質に対し触媒的不斉向山アルドール反応を進行させる事に成功した。三種触媒系の相互補完により、高活性、隣接不斉点の高度制御という利点を活かしつつ、基質一般性に乏しい欠点をも克服する事が可能となった。従来法に多く見受けられる極低温や厳密な無水条件を必要としない事からも、多面的な応用が期待される。従来の不斉ホウ素付加反応で報告されている銅(I)触媒では厳密な無水条件及び強塩基の添加が必須、基質適用範囲は使用する不斉配位子の構造に強く依存していた。開発した触媒系は水酸化銅(II)が効果的、強塩基は不要、これまでになく幅広い基質に対して高収率、高選択性を与えた初めての例でTOFの最高値は43200 h^<-1>を記録した。C-エノラートを経るとされるCu(I)に対してCu(II)ではO-エノラート中間体を経由する事、またJahn-Teller効果によって不安定化されているd_z2軌道の活用が発見の鍵と考えられる。環状ジェノンに対しては均一・不均一2種類の触媒系を使い分ける事により1,4-付加と1,6-付加の選択性がスイッチする。驚くべきことにCu (O)も有効である事が見出され、結果としてCu (O), Cu(I), Cu(II)各々が本不斉反応を触媒しながらも異なる触媒作用を示す極めて興味深い知見に繋がった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
水中で時折発現する特異的な反応性や選択性の制御を実現し、水を積極的に活用する反応開発へと繋げるには、少なくとも知見の飛躍的な拡張が前提で、且つこれら知見を基にした革新的な理論構築が必要だった。研究の進捗に伴って得られた様々な知見を活用する事により水を触媒サイクル内に効果的に組み込む反応及び触媒設計へと発展し、有機溶媒中で涵養・体系化されてきた従来の有機化学では説明できない反応性や選択性を実現する等、人類が営々と築き上げてきた従来の有機化学とは一線を画す、新たなる有機化学の黎明を切り拓く事に大いに寄与できたと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで水系溶媒中での反応開発研究を通じて培った知見を活用し、水を積極的に活用した反応開発を更に推進する。例えば、水による分解反応との競合の問題から混合溶媒系の使用が必須である反応系に於いてはLewis酸と界面活性剤とを組み合わせたLewis酸界面活性剤一体型触媒(LASC)を活用するなどして基質の安定性を高めると同時に、ミセル特有の加速効果を反応性に繋げる工夫を行う。より水中での安定性が低い基質に対しては、界面活性剤部位の構造設計を通じて、これまでにない反応性や選択性を生み出す事を目指す。また水中への触媒の分散性と金属上の電子軌道活性化を両立すべく、炭素材料等の活用も期待される。同時に、界面活性剤機能を不斉配位子側に組み込むことで酵素に倣った機能集約効果を実現できるよう検討を行う。
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Research Products
(14 results)