2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J10729
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
三島 由夏 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | コンタクトコール / シロイルカ / カマイルカ / 海洋生物音響 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物が群れを維持するために鳴き交わす音をコンタクトコールという。ハンドウイルカはシグネチャーホイッスルと呼ばれるコンタクトコールに個体情報を含ませており、「名前」のような機能を持たせている。イルカとヒトは系統的起源も生息環境も全く異なるが、同じような機能を進化させたということである。イルカのコンタクトコールの進化過程を探ることは、ヒトの音声個体認知が現在の形へと進化した要因の解明に繋がるものである。進化過程を探るためには種間で比較する必要があるが、イルカのコンタクトコール研究はハンドウイルカに偏っており、他種に関する知見が極めて少ない。そこで本研究ではシロイルカとカマイルカについて調べる。 平成25年度は名古屋港水族館のシロイルカ5頭を調べた。隔離状態においてシロイルカがある種のバーストパルス(PS1 call)を頻繁に出すこと、PS1の様々な音響パラメータに個体差があることを明らかにした。特に各パルスの時間間隔の変化(IPIコンター)は、1歳の個体を除くと個体特有で比較的定型であった。 平成26年度は9月~3月に、しまね海洋館アクアスのシロイルカ7頭を調べ、PS1の特性が飼育個体に共通するものなのかを調べた。隔離状態ではなかったものの、PS1の頻度は最も高く、個体差も認められ、IPIコンターも各個体定型であった。また0歳の個体はPS1を出さなかった。これらの結果から、飼育下においてシロイルカはPS1をコンタクトに用いていること、IPIコンターに個体情報を付加している可能性が高いこと、PS1の獲得には音声発達に関係していることが明らかとなった。 1年を通して海遊館でカマイルカ4頭の鳴音収録も行った。雌の2頭は数個のバーストパルスから構成されるパルスパターンを頻繁に鳴き交わしており、孤立時にはそのパルスパターンが多く発せられた。このことから、カマイルカはパルスパターンをコンタクトに用いている可能性が高いことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シロイルカは名古屋港水族館と、しまね海洋館アクアスの個体においてPS1をコンタクトに用いていること、PS1のIPIコンターに個体情報を付加している可能性が高いことを明らかにした。それだけでなく、0歳の個体がPS1を全く出さないこと、1歳の個体はPS1を出すもののIPIコンターは定型でなかったことから、PS1の獲得には音声発達が関係していることまで明らかにすることができた。当初の予定であるプレイバック実験(鳴音機能を検証するために、動物に対して鳴音を再生し反応を見る実験)まで遂行できてはいないが、本年度行う予定であり、おおむね順調である。シロイルカの成果については、国内外のさまざまな学会、シンポジウムで発表しており、学術論文も投稿中である。 カマイルカは、コミュニケーション鳴音に関する先行研究がほぼない状態でのスタートであったにも関わらず、雌においてはあるパルスパターンをコンタクトに使用している可能性を示唆するにまで至った。シロイルカともハンドウイルカとも違うパルスパターンという音媒体をコンタクトに使っている可能性を示唆したことは大きな成果といえる。鳴音には雌雄差があることも明らかにしており、順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
シロイルカでは、ハンドウイルカの先行研究に基づいてプレイバック実験を実施し、PS1に見られた個体差がシロイルカの知覚レベルにおいても機能しているのかを調べる。まずはプレイバック実験に向けて鳴音再生システムを構築すると共に、実験デザインを考える。そして名古屋港水族館の個体を対象にプレイバック実験を行う。しまね海洋館アクアスでも実施予定であったが、プレイバック実験は、偽反復にならないよう細心の注意を払ってデザインする必要があるため、1つの水族館に絞って、実験デザインをしっかりと行う。同水族館の仲間のPS1と他の水族館(しまね海洋館アクアス)の知らない個体のPS1を再生し、反応の差を見る。反応指標には、鳴き交わしの頻度の変化、スピーカーと個体間距離の変化、頭の向きの変化、反応時間を用いる。 カマイルカに関しては、引き続き鳴音収録、行動観察を行う。カマイルカへのプレイバック実験を3年目に予定していたが、プレイバック実験の前に、複数のグループの個体から鳴音収録を行い、各個体から多くのコンタクトコールを集め、個体内のヴァリエーションも見なければならない。特にパルスパターンという音響構造は、情報が載っている可能性のあるパラメータが多いため、サンプル数を多くする必要がある。したがって引き続きカマイルカの鳴音収録を重点的に行うことにした。 シロイルカ、カマイルカ、ハンドウイルカのコンタクトコールを比較し、社会構造や生息環境、系統との関係を考察する。国際学会、国内学会で発表すると共に、学術論文、学位論文を執筆する。
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Research Products
(3 results)