2013 Fiscal Year Annual Research Report
戦後の夜間中学校成立期の研究:1950年代の不就学・長欠問題と貧困に焦点をあてて
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13J10982
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
江口 伶 東京大学, 大学院教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 不就学 / 貧困 / 夜間中学校 / 戦後 / 義務教育 |
Research Abstract |
本研究の目的は、1947年の新学制への移行に伴って現れた義務教育段階における不就学・長欠者問題の実態と、その対策の一環として成立した夜間中学校の実践を分析することで、貧困・労働問題や福祉施策との結節点に着目して、戦後教育史像を描き直すことである。本研究は、戦後においても根深く存在しながら隠蔽されてきた社会的周縁における貧困と教育の関係を描き出し、現代の社会的課題を考察する上で必要な歴史像を構築する上で重要な意義を持つ。また、先行研究が東京都・兵庫県・大阪府等の事例しかとり上げてこなかったのに対し、本研究は初めて戦後の夜間中学校の全国的動向を明らかにする重要な研究となると考える。 特に本年度は、①これまで取り組んできた東京都における都市貧困層の不就学・長欠問題に端を発した夜間中学の成立・展開過程について、全国的な動向とも関連付けながら成果をまとめること、②京都府、大阪府、兵庫県など近畿地方の夜間中学校の成立過程について、資料収集を進めること、の2点を目標とした。 成果としては、①については日本教育学会や各種の研究会で成果を報告し、1950年代の不就学・長欠問題が児童労働や人身売買、青少年問題等と深く関わる重要課題であったことを明らかにすることができた。②については、京都府の事例について資料収集が進んだため、論文にその成果をまとめることができた。また、近畿地方のみならず、広島県、福岡県まで資料収集の範囲を広げることができ、同時期に草の根的に勃興した夜間中学校の成立過程を明らかにする上で重要な知見を得ることができた。また、元教員への聞き取り調査も進み予定していた以上の成果をあげている。さらに、オーラル・ヒストリーの方法論に関して検討し、論文としてまとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
資料調査を予定していた近畿地方だけでなく、中国地方、九州地方まで広げ、また個人所蔵資料の収集も進めることができたため。また、予定していなかった京都府の事例について、資料調査が順調に進み、論文としてまとめることができたため。さらに、歴史叙述における方法論の問題について、オーラル・ヒストリー研究の動向と可能性を論文にまとめることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題は、主に以下の4点に要約される。 ①和歌山県、三重県、奈良県、神奈川県、千葉県などの未調査地域について、当該地域の行政資料や学校所蔵資料を調査し、夜間中学校の成立期に関する予備的調査を完了すること。②夜間中学校の元教員の所蔵資料調査、また元教員や卒業生への聞き取りを進めること。③夜間中学校の成立地域の周辺に位置した都市スラム、披差別部落、漁村、朝鮮人集落、炭鉱等の当時の社会的背景・産業構造と就学行動の関係について検討すること。④夜間中学校の展開過程において新たな生徒層として登場する非識字者、在日朝鮮人、韓国・中国からの引揚帰国者、ニューカマー等について、戦後日本社会の構造変動との関係と重ね合わせながら、その就学行動・学習要求が顕在化した背景を検討し、教育実践現場において何が課題となっていたのかを明らかにすること。 以上を通して、夜間中学校の戦後史から戦後日本社会を逆照射することを目指す。
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Research Products
(3 results)