2014 Fiscal Year Annual Research Report
戦後の夜間中学校成立期の研究:1950年代の不就学・長欠問題と貧困に焦点をあてて
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13J10982
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
江口 怜 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 夜間中学 / 不就学・長期欠席 / 貧困 / 差別 / 義務教育 / 戦後 / 包摂と排除 / マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度に引き続きこれまで進めてきた研究上の知見について学会・研究会等で積極的に発信しつつ、未発掘資料の収集に努めた。 まず、新たに三重県、和歌山県、愛知県名古屋市、兵庫県伊丹市、大阪府大阪市・岸和田市にて過去の夜間中学の設置校に調査を行い、これまで未調査であった地域の夜間中学の状況を確認することができた。その中で、被差別部落の子どもたちや在日朝鮮人の子どもたちを対象とした夜間中学の実態が浮かび上がり、これまでの夜間中学研究で触れられてこなかった新たな一面を把握することができた。こうした成果からは、当時の不就学・長欠問題はただ「貧困」という点から把握するだけでなく、差別問題との関係で考察する必要があることが明らかになったと言える。 さらに、兵庫県神戸市・尼崎市では継続して夜間中学卒業生への聞き取り調査を実施し、オーラル・ヒストリー研究の成果としてその一部を学会にて報告し、貴重な意見交換を行うことができた。 これらの調査によって、戦後の夜間中学設置地域の全体像が一定明らかになった。未調査である奈良県や神奈川県等の調査をさらに進め、この時代の夜間中学の全体像を明らかにすることができれば、これまでの夜間中学研究を新たに大きく進めることになると考えている。 さらに、一橋大学の木村元教授が中心となって進めている戦後の「学校化社会」の成立過程に関する研究会に参加し、研究の視座を広げることができた。さらに、この研究会での知見を生かした夜間中学の戦後史の通史を研究会の報告書に執筆し、朝鮮学校や定時制高校等の「周辺の学校」と比較した際の夜間中学の特性について位置づけることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
筆者の研究課題は、まず1950年代の夜間中学の全国的実態について新たな史料調査に基いて明らかにすることであり、さらにその実態を通して戦後日本社会における貧困層やマイノリティと学校教育との関係について新たな視座を提示することである。この大きな課題について、概ね順調に研究は進捗している。 まず、全国的実態の解明であるが、本年度は先行研究でも未調査であった三重県、和歌山県、愛知県名古屋市で史料調査を行い、元教員や卒業生への聞き取りも含めて大きな成果を挙げることができた。その中では例えば、和歌山県の事例のように、被差別部落の子ども会主体の夜間学級に教師を派遣する形態のものが含まれていることが明らかになった。この事実は、夜間中学が被差別部落住民の強い期待の中で開設されたこと、その中で学校以外の場所での学習の実施を通して学校文化との断絶の深い子どもの就学を可能にする「包摂の工夫」があったことを示している。 また、三重県の調査の中では、これまで所在が不明であった全国夜間中学校研究会の初期の史料を発掘することができた。こうした史料は、夜間中学の全国組織と地域の各夜間中学殿関係性を知る上でも貴重なものである。 このように、新たな史料調査によってこれまで不明であった実態が明らかになると同時に、各地の夜間中学の事例を通して学校と被差別地域の関係性の特徴も明らかになり、第二の課題に応える上でも重要な成果を上げている。 さらに、こうした夜間中学の特徴を「学校化社会」という視座によって切り取ることを試みる論文を執筆することができた。こうした見方は、夜間中学研究にとどまらず、戦後日本の学校教育史が周縁化された子どもたちといかに関係を切り結んだのかを明らかにする上で、重要な知見となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題は二つである。 一つは、残り少ない未調査地域、具体的には奈良県と神奈川県、そして大阪府・兵庫県・京都府の一部について資料調査を継続することである。これまでの調査からも、場合によっては過去の夜間中学の存在を知る人々に接触できる可能性が残っており、もしそうした接触が可能になれば夜間中学研究にとって重要な意義を持ちうる。そのため、引き続き過去の夜間中学設置校の所蔵資料や、自治体の公立図書館の所蔵史料の調査を進める必要がある。 もう一つは、夜間中学を戦後教育史の中に位置づける上での分析視角を洗練することである。これまで研究の中で用いられてきた「包摂と排除」や「国民統合」、「学校化社会」といった概念を個々の事例に即して再検証すると同時に、事例を通して新たな概念を作り出し、より鮮明に戦後日本社会における学校教育の位置をクリアに提示することが課題となる。
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Research Products
(3 results)