2014 Fiscal Year Annual Research Report
WEB上に散在する潜在的自然史資料の発掘とその活用
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13J11038
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Research Institution | Kanagawa Prefectural Museum of Natural History |
Principal Investigator |
宮崎 佑介 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | Citizen Science / 生物多様性情報学 / Open Science / voucher / 再検証可能性 / 生物の分布 / インターネット / 生物画像 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は、神奈川県立生命の星・地球博物館の魚類写真資料データベースと、株式会社ズカンドットコムが提供するシステム下においてボランティアが運用するWEB魚図鑑のこれまでの遍歴を、博物館学・保全生物学・魚類学・生物地理学などの学術領域における貢献の観点から分析し、取りまとめた論文を国際誌に発表した。また、その論文をさらに発展させるべく、外来魚類の博物館資料や一般市民の釣り上げた魚類写真資料を題材とした研究を行ない、国内外の学会で発表することによって、他の研究者との意見交換を図り、共同研究の可能性を探った。それらの成果の一部については、国際誌および国内紀要に英語論文として公表した。なお、昨年度から引き続き、上記の両機関の関係者である共同研究者との意見交換や、協働できる方や機関の模索を実施した。 WEB上に散在する生物画像は、必ずしも一定の手法で取得されたものではなく、またその大半が科学的な目的のために取得されたものではない。ここに、専門家の参画が加わり、自然史博物館の博物館資料として登録・保管することによって、生態学・分類学・生物地理学といった学術領域の発展やそれらと関わりのある社会問題の解決に寄与するための土台が築かれる。この論理を補強すべく、魚類標本および魚類写真資料を積極的にvoucherとして活用した魚類相、魚類群集を対象とした研究も国内外の博物館を拠点に実施した。魚類や淡水二枚貝の在・不在、種数、個体数、湿重量の変動に着目した生物統計学的な評価にもとづき、保全生態学的な観点から、北海道黒松内町および岩手県一関市久保川イーハトーブ自然再生協議会が策定した生物多様性地域戦略の実現とその順応的管理に貢献し得る研究も行なった。これらの成果についても、国内外の学会で発表し、国際誌や国内の査読付き学術雑誌として公表したほか、一部については論文投稿の準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神奈川県立生命の星・地球博物館の魚類写真資料データベースとWEB魚図鑑との連携による成果を生態学的・生物地理学的・進化学的観点から分析・評価し、その結果を論文として取りまとめ、3編を査読付き国際誌に、1編を国内紀要に発表した。国内外の学会発表や研究集会の参加を通じて、関連分野の研究者やシステム・エンジニア、ユーザー等との意見交換を行い、共同研究の機会を熱心に探った。また、自身の構築中の理論を実践により補強するため、魚類標本や魚類写真資料(博物館資料)を活用した研究も進め、上記とは別に、生態学的・生物地理学的な論文を国内外の学術誌に発表した。 とりわけ、国内外の学会等での意見交換において、新興の学術領域であるCitizen Scienceとしての本研究の立場を意識するに至った。Citizen Scienceでは、専門家が組んだプログラムに則って、一般市民が科学データの取得に寄与する、あるいは一般市民が科学を実践する、といった手法が一般的であった。しかし、WEB上に散在する生物画像は、必ずしも一定の手法で取得されたものではなく、またその大半が科学的な目的のために取得されたものではない。ここに、専門家の参画が加わり、自然史博物館の博物館資料として登録・保管することによって、生態学・分類学・生物地理学といった学術領域の発展やそれらと関わりのある社会問題の解決に寄与するための土台が築かれる。それだけでなく、自然史博物館を中心とする意義として、普及教育の高い効果が期待できることもあげられる。この概念は、Citizen Scienceにおいては示されてこなかったことを改めて確認するとともに、この概念にもとづき、上記方法論にもとづく博物館資料の分析や、WEB魚図鑑管理者・一般市民・博物館の協働によって分類学的研究に寄与した実際の事例を示し、さらに既存の研究を整理し、その可能性を示した。 上記のように、研究が進展しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに引き続き、釣り人等の一般市民から提供をいただいた魚類の画像を、「魚類写真資料データベース」に登録する。画像提供者(一般市民)から得られた新しい生息地の科学的発見に寄与する潜在的自然史資料の情報に基づき、順次、魚類の採集調査、標本作製、標本の測定などの調査を行なう。未記載種の可能性が認められる場合等では、原記載標本の観察と測定等調査を実施する。 また、これらの魚類の画像資料の同定結果ならびに研究結果は、一般市民へ自然教育ならびに研究成果の普及の観点からフィードバックを実施するが、その手法についても、社会学的な対照実験を実施し、生物多様性保全の普及効果がより高くなるような効果の検討を行なう。具体的には、釣り雑誌の連載記事など、マスメディアを活用したCitizen Scienceのとしての側面も重視しつつ、さらなる研究の発展を目指す。それだけでなく、黒松内町立小中学校における「総合的な学習の時間」での依頼授業に魚類の話題とともに生物多様性データベースの存在を引き続き取り上げ、本研究に基づく写真資料を活用した授業案の開発を進める。 さらに、「博物館的WEBサイト」の学術的な貢献可能性や、得られた「潜在的自然史資料」にもとづく調査内容、それらが自然教育や生物多様性保全の普及へ与える効果について、得られた結果を取りまとめ、国内学会・国際会議での発表を行なうとともに、学術雑誌への公表を行なう。 なお、最終的に、これまでに発表された、もしくはこれから発表される国内外の学術雑誌掲載論文を引用する形で、「潜在的自然史資料」の発掘を通して、「資料の収集」・「調査研究」・「教育」という博物館機能の活用を体系化する総論的な論文の公表も目指す。
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Research Products
(18 results)