2013 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト上科の妊娠・出産・授乳に母親の生育環境が与える影響の解明
Project/Area Number |
13J40012
|
Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
久世 濃子 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 日本学術振興会特別研究員(RPD)
|
Keywords | 繁殖 / 大型類人猿 / 人類 / 妊娠 / 出産 / 母乳 / 成長 / 環境 |
Research Abstract |
本研究では、ヒト上科(ヒトおよび大型類人猿)の妊娠・出産・授乳において、母親の生育環境(栄養状態と運動量)が与える影響を解明することが目的である。具体的には、ヒトおよびオランウータン(大型類人猿の一種)において、次の仮説を検証する。「性成熟前の栄養過多や運動不足が、つわり、難産(分娩異常)、授乳困難、出産後の母体の健康状態の悪化を招く」 ヒトについては、先進国の女性および狩猟採集民を対象に聞き取り調査や文献調査を行う。また大型類人猿に関しては、飼育個体および野生個体を対象に直接観察および飼育係や研究者を対象とした聞き取り調査を行うと共に、尿中のホルモン代謝物質を測定し、母親の栄養状態とつわりや難産との関連を定量的に明らかにする。これらの方法で集めた資料について、統計的手法を用いて、仮説を検証することを目的とする。 25年度は、狩猟採集民と日本人を対象とした聞き取り調査の準備、オランウータンの尿中ホルモン代謝物の測定、野生オランウータンに関する資料収集を行った。日本母子ケア研究会や母乳哺育学会等での臨床の専門家(助産師、産科医等)との情報交換、及び国内学会(日本霊長類学会等)での研究発表の為に国内旅費を使用した。また国内の動物園で飼育されている大型類人猿の対象とした聞き取り調査と、オランウータンの母子を対象とした行動学的・生理学的データの収集を開始した。国内調査の為の旅費や生理学的指標を測定する為に使用する試薬等、物品費で購入した。野生オランウータンに関する資料収集は、マレーシア国サバ州のダナムバレー森林保護区において2013年8月から開始し、オトナ雌の繁殖状態を毎月モニタリングするとともに、ホルモン分析の為の尿サンプルを収集した。野外調査や尿サンプル回収の為、2回マレーシアに渡航すると共に、現地で雇った調査助手の給与や、行動観察データの入力作業の為に謝金を使用した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野生オランウータンの尿中の発情ホルモン代謝産物、妊娠ホルモン代謝産物、および栄養状態の指標となるC-ペプチド代謝物の濃度の測定に成功し、ほぼ全ての雌で検出限界以下(栄養状態が悪い)という結果を得た。野生オランウータンの調査も順調にすすみ、妊娠・出産が年度内にそれぞれ1例、観察された。
|
Strategy for Future Research Activity |
25年度に狩猟採集民と日本人を対象とした聞き取り調査の準備として、日本母子ケア研究会、日本母乳哺育学会等に参加し、産科医、小児科医、助産師ら臨床に携わる専門家とディスカッションを行った。現在の日本では初産年齢の高齢化で、偏ったサンプルしか収集できない、少子化によって産院等分娩施設での聞き取り調査で十分なサンプル数を得ることは難しい、などの問題点が明らかになった。一方で、飼育下の大型類人猿における初産年齢の高齢化や、それが影響していると考えられる妊娠・出産時のトラブルの増加、などについては、多くの専門家が関心を示し、ヒトにとっても有用な知見なので、大型類人猿を対象とした研究をさらにブラッシュアップすべきである、という提言が多数であった。今後は、ヒトについては文献研究に重点をおくとともに、動物園での大型類人猿を対象とした調査研究をすすめる予定である。飼育下および野生下のオランウータンを対象した研究は当初の計画通り、順調にすすんでおり、今後は論文発表などに力を入れていく計画である。
|
Research Products
(13 results)