2014 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアの近代形成期における「伝記史」研究:史学史と「歴史の物語理論」の視角から
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13J40018
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森岡 優紀 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 伝記 / 東アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
近代の歴史記述のなかで個人史である伝記は国家史の枠組みのなかに位置づけられるのが現在当然のこととなっている。しかし、国家史が個人史の上位に位置することは近代からである。西洋歴史書と「文明史観」や「進化論」等の近代的史観の受容により、歴史の対象が国家や社会へ移り、その変遷や興亡に法則性(因果関係)を見出すことが歴史の目的となった。この過程で個人史と国家史はその位置関係を反転した。史学史研究においても、伝記等は近現代史を補完する史料としてしかみなされず、系統的な研究は存在してない。本研究は伝記を国家史の付属としてみなさず、むしろそれが個人史として独立的な意義を有しているという立場から、東アジア近代形成期における伝記に対する系統的な研究を試みる。 2014年度は、特に19世紀において、西洋伝記が東アジアにおいて如何に受容されたかについて研究を進めた。それを理解するために、まず西洋伝記の受容の背景を明らかにしなければならなかった。そこで、東アジアにおいて西洋的な学問や文化がどのような歴史的事件を契機として、誰によって、どのような経路をたどって受容されたかについて調べた。次にそれらの西洋文化の受容と伝記の翻訳がどのような関係性を持っているのかについて考察を進めた。 これらの考察は東アジアにおける伝記形成の研究に対する重要な基礎であり、今後の伝記史研究を進める上で不可欠なものである。本年度は、特にアメリカと中国での資料を収集することを通して、これらの問題を明らかにする糸口をつかむことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
東アジアにおける伝記の生成過程の考察を、萌芽期と成立期に分けて考察する予定である。萌芽期は文明史観などの西洋的史観と西洋歴史書の受容によって、伝記も史書の「伝」から近代的に変容した時期である。この時期には「英雄伝」が中心で、近代国家建設に貢献する人物をモデルとして国民に提示することで啓蒙的役割を果した。 今年度はこの萌芽期を中心に考察した。そしてこのような偉人伝のなかで最も重要な役割を果たした伝記が、ワシントン・アーヴィングによるアメリカ大統領のワシントンに関する長編の伝記、Life of Washington(ワシントンの生涯)の翻訳であることを発見した。この伝記は中国語、日本語に翻訳されており、これについて集中的に調べることにした。今年度はアメリカの大学に赴き、資料収集を行い、有意義な資料を発見することができた。 また、東アジア研究を進めるためには、日本研究、中国研究、朝鮮研究とそれぞれの立場からの問題意識について理解を深め、それを総合して立体的な角度から東アジアを研究する理論的枠組みを構築する必要があると考え、國際ワークショップ「中国の日本研究の現在と未来:歴史、文学、宗教からのまなざし」を2014年7月9日に京都大学百周年時計台記念館の会議室Ⅱにて開催した。このワークショップでは、中国の清華大学、アメリカの大学等の研究者が集まり、これまでの自分の研究を踏まえて、今後どのような研究を進めるべきかという点に重点をおいて発表が行われた。そのため、参加者も自らの研究を構築していく上でとても有意義であった。
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Strategy for Future Research Activity |
日本において、西洋の伝記が初めて翻訳したのは、ほかの日本人よりも西洋の事情に精通していたために、対外的な危機感を強めた蘭学者たちであった.彼らは西洋書物に掲載されている人物を抜き出して、西洋の人物に関するアンソロジーを編んだ。これが日本初の西洋人物の伝記アンソロジーとなった。その後、明治維新の後には、日本における西洋文化受容の中心が蘭学から英学へと移行する。 また中国では、主に西洋文化の受容は西洋の宣教師(英米の宣教師が大半を占めていた)を通じて行われ、西洋の伝記は宣教師が発刊した雑誌、新聞に掲載されていた。 このように東アジアにおける伝記の形成には、西洋文化との関わりが非常に重要な意味をもっており、特にそのなかで宣教師の果たした役割が見逃せない。そこで、今後は伝記に対する西洋の影響関係に関して、アメリカの大学等に赴き資料収集をする予定である。
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Research Products
(2 results)