2015 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアの近代形成期における「伝記史」研究:史学史と「歴史の物語理論」の視角から
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13J40018
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森岡 優紀 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 近代的伝記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は「伝記史」という角度から、東アジアの近代的伝記の形成過程を解明することにある。2015年度は、二つの課題を重点的に考察した。 一つは中国の近代的伝記が日本との関係においてどのように成立していったのかという課題である。これは梁啓超の『殉難六烈士伝』と『李鴻章』の分析を通じて行った。具体的にはこれらの伝記が用いた史料を特定した。 もう一つの課題は、東アジアにおいて西洋の伝記が受容される背景となった、東アジアにおける西洋の歴史の受容についてである。中国の1900年代においては、主に西洋文化の受容は西洋の宣教師(英米の宣教師が大半を占めていた)を通じて行われ、西洋事情、学問、文化の紹介は主に宣教師が発刊した雑誌、新聞を通して行われた。そこで1900年代に宣教師による西洋歴史書の翻訳について調査を行った。これらの中国で活躍した西欧の宣教師に関する研究は、日本では数少なく、むしろアメリカにおいて盛んに行われている。2015年の夏休みを利用してワシントン大学へ行き、英語で書かれた翻訳の原典、研究論文等の関連資料を収集した。 その他に、2015年7月9日、国際ワークショップ「中国の日本研究の現在と未来:歴史、文学、宗教からのまなざし」に続いて、東アジアに関する国際ワークショップ「東アジアにおける叙述と歴史」と題して、2016年2月13日に京都大学人文科学研究所にて開催した。これによって、本研究に大きな示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
アメリカの大学へ約2カ月に滞在して、主に1900年代に中国で翻訳された西洋歴史書の原典、それに用いられた史料について捜索を行った。100年以上前の英語文献は日本では所蔵が少なく、入手できない。しかしアメリカの大学図書館では多く所蔵があり、日本では入手できない文献が手に入り、それを分析することで次年度の研究を進める土台をつくることができた。 2016年2月に、国際ワークショップを開催し、そこで歴史と叙述に関する問題を議論した。そのなかで「世界史」、「グローバル史」と呼ばれる叙述について論じられた。「世界史」とは「世界への解釈」の語りでもあり、「『世界』を語ることの意味」が時代的に変化することによって、東アジアで書かれた「世界史」の変遷過程が描き出せるのではないかと感じ、19世紀の歴史叙述を研究する申請者は今後の研究課題を考える上で、大いに啓発を受けた。ここから得た重要な示唆は、研究の進展において役に立った。 論文の作成については、中国の近代的伝記の形成に関する論文の作成を行った。梁啓超はかなり早い時期から近代的伝記に着目した人物である。梁啓超の作品を分析することは近代的伝記の形成過程を考察するうえでか欠かせない作業である。今年度は梁啓超が中国の近代的伝記が欧米の西洋伝記の翻訳、日本の伝記からの影響を受けたことを明らかにでき、それによって近代的伝記を形成していった経緯が解明することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究に引き続き、資料の捜索を行う予定である。今後も清末における伝記もしくは外国史の翻訳に用いられた資料・底本などの特定する作業を継続する。そのために、アメリカのワシントン大学や中国の北京大学、清華大学、台湾の台湾大学等へ出張して、捜索を行う予定である。 具体的にはこれまでに引き続き、次のような手順で行う予定としている。①原著名、著者等が記載の文献(例えば『大英国志(1856)』→T Chamber’s Information for the people,『希臘志略(1886)』、『羅馬志略(1886)』等→The Series of History and Literature Primers, History of Greece, History of Rome等)はそれを入手し、版本等も特定をする。②原著名、著者等が記載していない場合は宣教師の日記等の史料、先行論文等から捜索する。③翻訳題名から推測し、図書検索システムを用いて捜索した。例えば19世紀に普及したアメリカ史を中国語文献と照合して、捜索を行う。④新聞記事の場合は、歴史事件の日時から記事を収集し、文献と照合する。
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Research Products
(3 results)