2014 Fiscal Year Annual Research Report
言語的マイノリティの子どもの二言語リテラシーの習得研究
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13J40029
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
櫻井 千穂 大阪大学, 言語文化研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 言語的マイノリティの子ども / 読書力 / 対話型読書力評価 / 読書力発達段階参照枠 / 段階的読み学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
言語的マイノリティの子どもの二言語(日本語と中国語、日本語とスペイン語)の読書力調査を初年度に引き続き、大阪府及び神奈川県下の複数の小中学校で実施した。そして、その収集データをもとに、子どもの二言語の読書力の発達過程を5つの年齢枠別、言語能力の6のステージ別に記述し、読書力の発達段階の参照枠の記述を行った。また、それぞれのステージにおける子どもの事例(読書力評価の過程で三られた発話事例)を分析した。 また、調査フィールドうちの一つの学校(S小学校)において、3年生6名(本年度から実施)、4年生9名(昨年度から継続的に実施)を対象として、母語教育カリキュラムの作成と日本語の対話型段階的読み学習の実践をおこない、その実践の成果を検証した。 母語教育については、アイデンティティの確立とリテラシーの基礎を身につけることを目的として、実生活に関わる言語活動(運用面)を重視したプロジェクトベースのカリキュラムとし、中国語母語話者である本学の大学院生にもその指導・支援に加わってもらった。本年度は、昨年度に作成したカリキュラムの改善に力をいれた。 対話型段階的読み学習では、個々の本読みの目標冊数を決め、レベルに応じた本を継続して読むという取り組みを実施した。retellingによって内容理解を深めた上で、その粗筋を写真やシール付きの読書日誌に記録していくというやり方で、児童のやる気を持続させるとともに、書く力の育成にも力を注いだ。 3、4年生は、どの児童も日本語の読書力に大幅な伸びが見られ、母語である中国語の伸長もみられた。 この2つの取り組みにより、言語的マイノリティの子どもの二言語での読み書きの力を伸ばすために、子どもの年齢と言語能力のステージに応じてできる公立学校での教育実践の一つの方法を示すことができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
読書力の発達段階参照枠に基づいて行ったS小学校での二言語読書力育成の協働実践により、対象となった子どもたちの二言語読書力に伸びがみられ、さらに、二言語の学習に対しても前向きな姿勢を示すようになった。 また、本実践について、S小学校教員に、シドニー日本語教育国際研究大会(2014年7月)及び、多文化共生社会における日本語教育研究会(2015年2月)にて発表をしてもらったり、教育委員会主催の研修会において実践報告をしてもらったことで、これらの先進的な実践が認められ、S小学校が、文部科学省が推進する「特別の教育課程」の研究推進指定校(平成27年度)に指定された。さらに、文部科学省が毎年1回実施している全国規模の「外国人児童生徒等に対する日本語指導指導者養成研修」(平成27年度)において、本実践を発表することとなった。 並行して、平成26年度から、本研究を基礎研究の一部として文部科学省により開発された「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメント」という言語能力評価ツールの普及がはじまっており、この評価ツールの開発に携わってきた筆者のもとにも各地の教育委員会から講演・講座の依頼があり、アウトリーチ活動の一環として、積極的にそれらを引き受けてきた。このことにより、本研究の成果を教育現場に広く還元することができたと考える。 一方で、これらの研究・実践の成果を学会誌や著書として発表できておらず、その点に関しては来年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進めているS小学校での二言語教育の実践については、引き続き、進めていく予定である。現在は、特に中学年(3、4年生)に焦点を絞った教育実践をしているが、低学年、高学年にも対象を広げ、それぞれの学年に応じた読書力育成の実践を進めていく。 一方で、これまでの2年間で得られた研究成果を積極的に関連する学会誌に投稿(発表)していく。また、言語的マイノリティの子どもの二言語読書力の発達に関する理論と教育実践、および、対話型読書力評価を実施するためのマニュアルを示した著書を本年度中に出版する予定である。
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Research Products
(4 results)