2015 Fiscal Year Annual Research Report
母性因子による胚性遺伝子ネットワークの開始機構の解析
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13J40065
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石井(小田) いずみ 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 母性因子 / 転写調節 / タンパク質相互作用 / リプレッサー領域 |
Outline of Annual Research Achievements |
様々な動物種において、発生開始時の母性因子の局在パターンに従って、領域特異的な発現を開始した転写因子やシグナル伝達因子などの調節因子により、胚の領域によって異なった遺伝子ネットワークが開始される。本研究の目的は、発生開始時に母性因子がどのように胚性遺伝子ネットワークを開始させるかについて理解することである。このために本研究では、ホヤの発生過程の最も初期に胚性発現を開始する調節遺伝子(プレパターン遺伝子)の発現が、母性因子によりどのように調節されているかを明らかにすることを目指している。 前年度までに、プレパターン遺伝子の示す発現パターンのうち、動物半球(AD)特異的発現はGata.aに、植物半球(VD)特異的発現および植物半球後方(PVD)特異的発現は、ともにβ-catenin/Tcfにより活性化されていることを明らかになった。今年度は、さらにPVD特異的発現に必要なZic-r.a(Macho1)を加えた4つの母性因子の相互作用が転写調節にどのように影響するかを調べ、次のような調節機構が存在する可能性を示した。AD特異的発現は、全割球に存在するGata.aにより活性化されるが、VDでは、VDのみで核に存在するβ-catenin/TcfがGata.aとタンパク質複合体を形成することにより、Gata.aのGata結合配列への結合が抑制される。VDまたはPVD特異的な発現は、ともにβ-catenin/Tcfにより活性化されるが、PVD特異的な発現の調節領域にはリプレッサーが結合し、VD全体で転写を抑制している。しかし、Zic-r.aが局在するPVDでは、Zic-r.aが調節領域にアクセスすることで、転写抑制の解除にはたらいている。この調節機構では、負の調節機構が重要な役割を果たしており、これまであまり研究が進められてこなかった負の調節機構の動物の発生における重要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ホヤのプレパターン遺伝子の示す発現パターンの調節機構を全て明らかにすることを目指している。現在までの研究過程で、プレパターン遺伝子の示す多様な発現パターンのうち、動物半球特異的、植物半球特異的、植物半球後方特異的な発現がGata.a、β-catenin/TcfおよびZic-r.aの相互作用によりどのように調節されているかを明らかにすることができた。これらの3種の発現パターンは、全てのプレパターン遺伝子の基盤をなすものであることから、その調節機構を明らかにできたことは、当初予定していた研究目的の主要な部分を占める大きな成果である。実際、Gata.a、β-catenin/TcfおよびZic-r.aの4つ母性因子は、プレパターン遺伝子示す発現パターンのほぼ全てで、その調節にはたらいていることがわかっている。今後、これまでに明らかにできた調節機構を念頭に研究を続けることで、まだ明らかにできていないプレパターン遺伝子の転写調節機構や、プレパターン遺伝子の調節に関与する未知の母性因子についても明らかにし、当初の研究目的を達成することができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、動物半球特異的、植物半球特異的、植物半球後方特異的な発現がGata.a、β-catenin/TcfおよびZic-r.aの相互作用により調節されていることを明らかにした。 今後は、これらの母性因子の相互作用による調節機構をふまえ、まだ明らかにできていない以下の点について解析を続ける予定である。 1、動物半球前方および植物半球全体で発現するFoxa.a、動物半球全体と植物半球前方で発現するSoxb1の転写調節については、これまで明らかにした転写調節機構では説明することができていない。しかし、これまでの調節領域の解析から、Gata.aおよびβ-catenin/Tcfが、その調節にはたらいていることを示唆する結果を得ている。今後はこれらの調節機構について解析し、これまでに示した機構とは異なるGata.aおよびβ-catenin/Tcfによる調節機構が存在するのかを明らかにする。 2、これまでに明らかにした調節機構では、β-cateninと結合してはたらく転写因子であるTcfが、母性因子間のタンパク質相互作用で中心となる役割を果たしていることが推測される。また、Tcfはβ-cateninと相互作用する際には転写の活性化因子としてはたらくが、相互作用する相手によっては、転写の抑制因子としてはたらくという報告がある。今後は特に、(1)Tcfと相互作用する複数のタンパク質の間の関係、(2) β-cateninと相互作用していないときのTcfの役割について、解析を進める。
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Research Products
(3 results)