2013 Fiscal Year Annual Research Report
モンスーン・アジア稲作灌漑システムの国際比較:制度と社会ネットワークの視点から
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13J40073
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竹田 麻里 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 水資源配分 / 比較制度分析 / タイ / 灌漑 / 集合行為 / チャオプラヤデルタ / GIS / 社会的ネットワーク |
Research Abstract |
本年度は、水資源の部門間調整の比較制度分析(以下研究A)と灌漑管理の比較制度分析(以下研究B)を実施するためタイ国での在外研究を行った。研究Aでは主に乾季の水資源配分における制度、政策、組織に関する機関調査と2000年~2014年の乾季におけるセクター間および地域間の計画配水量および実配水量、チャオプラヤデルタ内の全大規模灌漑区の灌漑面積等のデータ収集を行った。その成果として、部門間の水資源配分の優先順位は水系ごとに設定され、チャオプラヤ川流域では優先度が高い順に、水道水、環境用水、灌漑水、工業用水の順であること、灌漑水の配分について、デルタ内の地域間でも大きな違いがあることが明らかとなった。これらの配分は、関係部局が出席する国家レベルの委員会が基本的に意思決定を行うことになっているが、詳細な事項を含む配分の決定は乾季、雨季ごとに組織される委員会が行っており、水利権が設定されていないタイにおいては、委員会が決定する協定という形で組織的に水資源の配分が行われている。 研究Bについては、チャオプラヤデルタ内で、灌漑用水の配分や管理について集合行為がみられる地域かつ、GISが整備されている地区として、チャイナート県カオケオ地区を調査地区として選定し、GISデータの整備および約500戸の農家調査を実施した。その成果として、多くの先行研究がチャオプラヤデルタの農村を"緩い社会関係"と特徴づけてきたのと対照的に、村によっては、灌漑水路の浚渫費用や用水を確保するために使われる村共用のポンプの費用を全員で負担するといった集合行為が見られる興味深い結果を得た。この集合行為は村のまとまりといった社会的関係だけではなく、灌漑を利用した乾季作の定着と定住性の増大といった歴史的変化とともに、灌漑水に対する集団的なアクセスがある程度良好であるといった立地の影響を受けることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、研究Aの成果を平成25年度末の学会で報告する予定であったが、12月~2月の間のバンコクを中心とした政情不安によって一部の機関調査の延期が余儀なくされ、発表には至らなかった。しかし、年度末には研究A, 研究Bともにタイ国で収集すべきデータや必要な機関調査を終え、研究Aについてはカウンターパートである現地受入大学の共同研究者とともに研究報告書としてとりまとめることができたため、大幅な遅れではないと評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の6月で採用開始から1年となる。そのため、6月末までに研究Aおよび研究Bについて、日本との比較研究の前段階として、タイ国チャオプラヤ川流域を対象とした研究成果を英文雑誌(査読付き)へ投稿し、平成26年度中に成果をあげられるようにする。これは、平成26年度の後半から実施する日本との比較制度分析において重要となる論点を整理することにもつながり、比較研究を推進することになる。また、平成26年7月末までタイ国に滞在する予定であることから、タイ国内での研究発表の場(学会もしくは大学内での研究会等)で発表し、タイ人研究者との議論によって研究内容を高めると同時に、アジア地域の研究者のネットワークづくりに努める。
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Research Products
(1 results)