2014 Fiscal Year Annual Research Report
モンスーン・アジア稲作灌漑システムの国際比較:制度と社会ネットワークの視点から
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13J40073
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竹田 麻里 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 灌漑管理 / 水資源配分 / 協調行動 / 社会ネットワーク / 稲作 / タイ / モンスーン・アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、チャオプラヤ川流域の乾季におけるセクター間および地域間の水資源配分に関する中期的なデータをもとに分析を行い,セクター間の配分においては農業セクターが最も劣位の優先順位であり,かつ稲作地帯であるデルタの灌漑水の配分では,水不足で乾季の作付ができない地域がある一方,3期作を行う地域があるといった地域的な差が固定化しつつあることを明らかにした。渇水時に自発的に互譲の精神で水を分け合う渇水対策連絡協議会という流域組織をもつ日本を念頭に置くと,特に地域間の灌漑水の配分については,流域組織等,広域の水資源配分組織の機能を高める必要性を示唆するものであると考えられる。 また、チャオプラヤ側流域農村における農家の灌漑管理については、GISデータと農家調査データをマッチングし,村レベルでの協調行動が成り立ちにくいと言われてきたチャイプラヤデルタの農村において,特に上流にあたる北東部のデルタでは乾季の水不足の深刻化を背景に,以下のことが明らかとなった。1)支線水路ごとに組織されるWater Users Groupは,おもに村間の水配分調整を行う。2)圃場レベルの水配分は村が調整を行う。3)地下水の利用可能性が高いところでは地下水が選好される。これは水利調整における村の役割を日本と比較する際に重要な知見である。 さらに日本,タイ,中国の3か国を対象とした社会ネットワーク分析の課題では、分析の出発点として、まず日本を対象に、ネットワークのノードにあたる末端の用排水施設の維持管理作業の義務者として耕作者、所有者のどちらが選択されるかを離散選択モデルによるパネルデータ分析によって明らかにした。そして,農家率で示される農業資源管理のステークホルダーの異質性や集落の寄合において情報が共有される構成員の範囲が義務者の選択に影響を与えることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、チャオプラヤ川流域のセクター間および地域間の水資源配分について国際会議で発表し、国際雑誌への投稿を行い、マイナー修正のうえ掲載が可能であるとの評価を受けた。また、チャオプラヤ側流域農村における農家の灌漑管理については、GISデータと農家調査データをマッチングし、空間解析用のデータセットの構築と補足調査を行うなど、着実に進捗しており、来年度中に発表できる見通しが立っている。 日本、タイ、中国の3か国を対象とした社会ネットワーク分析の課題では、分析の出発点として、まず日本を対象に、末端の用排水施設の維持管理作業の義務者として耕作者、所有者のどちらが選択されるかを離散選択モデルによるパネルデータ分析を行い、年度末に学会で報告し、報告論文の投稿を終えている。 中国・タイを対象としたネットワーク分析の本格的な作業は今年度から開始するが、その他、採用期間前から執筆してきたオークション型環境保全の社会実験に関する論文が海外雑誌に受理されるなど、一定の成果を上げていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
チャオプラヤ川流域の農村調査によって明らかにした農家間の水配分調整と施設管理の協調行動に関する分析を深め,今年度中に発表を行う。 また,これに関連し,すでに共同研究者がデータを得ている中国雲南省での農村調査とGISデータ,研究者本人がすでに得ている日本における農村調査およびGISデータを加えて,タイ,中国,日本の農業水利のネットワーク分析を行うためのデータセットを用意し,基本的な特徴を整理する。データは既に得られているため,解析作業が中心となる。そのための補足調査や既存研究のさらなる渉猟を行う。
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