2015 Fiscal Year Annual Research Report
タービダイト泥と半遠洋性泥の起源と堆積プロセスの解明
Project/Area Number |
13J40125
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大村 亜希子 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 半遠洋性泥 / タービダイト泥 / 有機炭素 / 安定同位体比 / 放射性炭素年代 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)熊野トラフ西部海盆底から採取された全長40cmの海底表層堆積物について,全有機炭素(TOC)の放射性炭素(14C)年代を0.5~1cm間隔で連続測定した結果を解析した.較正プログラムを使用して年代曲線を作成したところ,下位層よりも測定誤差以上に古い年代値を示す層準が複数認められた.これは実際の堆積年代よりも古い炭素が混入したためと考えられ,古い年代を示す層準をイベントとして認定した.イベント層の形成年代を特定するため,同じ層準の微量の浮遊性有孔虫化石による14C年代測定を共同研究者に依頼した.測定結果を暦年に較正した年代値を用いて,通常時に堆積したTOCの14C年代値を補正した.一方,堆積物に含まれる炭素の安定同位体比(δ13C)の測定結果,イベント層は海洋プランクトン起源の有機炭素を多く含み上下の堆積物と同じ特徴を持つことから,近傍の海底斜面が崩壊し形成されたと考えられた.上部の一層準のみ,若干の陸源有機炭素の増加が認められ,浅い斜面の崩壊あるいは陸上の洪水起源と考えられた.通常層の堆積年代にもとづいてイベント層の形成年代を見積もると,歴史記録にある15世紀以降の海底地震と洪水に対応すると考えられた.さらに微量の浮遊性有孔虫による14C年代測定層準を追加するため,専門会社へ浮遊性有孔虫の拾い出しを依頼した. (2)別府湾から採取された堆積物に含まれる起源が不明のイベント堆積物の形成プロセス,および,2011年東北地方太平洋沖地震によるタービダイト泥の堆積プロセスを詳細に検討するため,別府湾と仙台湾の海底表層から採取された現世堆積物の有機炭素分析を実施した.測定には,国立科学博物館に設置されている元素分析計と質量分析計を使用し,TOCとδ13Cを測定した.別府湾,仙台湾ともに,堆積物採取地点の水深や海底地形を反映して,TOCとδ13Cは異なる値を示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題である「タービダイト泥と半遠洋性泥の起源と堆積プロセスの解明」において,半遠洋性泥はタービダイト泥に対するリファレンスとして用いているが,陸棚斜面~海底扇状地および沖合の海盆底環境では半遠洋性泥にも堆積プロセスの多様性があることが予想された.そのため, 堆積物中の有機炭素を用いた高精度放射性炭素(14C)年代測定結果にもとづいて,半遠洋性泥の堆積プロセスを検討した.一見半遠洋性泥が連続的に累重し均質に見える堆積物にも年代が古く見積もられる層準があり,これらがイベント層準である可能性が示されたことは,半遠洋性泥の堆積プロセスの解明に新たな手法を加える可能性を示す成果である.さらに,共同研究者とともに,微量の浮遊性有孔虫化石による14C年代測定結果を用いて,有機炭素の14C年代値を補正できたことは,イベント層の形成年代を特定する方法として今後も活用される重要な手法となるだろう.一方,過去のタービダイトの堆積プロセスを検討するためには,周辺の海底表層に分布する堆積物の特徴を知る必要がある.別府湾と仙台湾で採取された海底表層堆積物の有機炭素分析を行なった結果,堆積物採取地点の水深や海底地形を反映して,全有機炭素量(TOC)と安定炭素同位体比(δ13C)は異なる値を示した.この結果は,沖合のタービダイトの供給源を特定するための重要な情報となる.以上の理由により,本研究課題の研究目的は順調に達成されつつある.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)1年度目には,特定のイベントで形成されたことが明らかな現世タービダイト泥の陸源有機炭素率の層位変化を検討し,洪水起源と海底地震による斜面崩壊起源の堆積物では,堆積プロセスを反映して異なる層位変化パターンを示すことを見いだした.2年度目以降は,この層位変化パターンとの比較にもとづいて,過去数年~数千年前の堆積物についても同様の手法で堆積物の解析を進め,熊野トラフでは,同一地点においても異なる起源の堆積物が有機炭素分析によって区別される可能性を示した.翌年度以降も,引き続き,形成要因がわかっていない過去の堆積物について,南海トラフ周辺から採取された試料を対象に,同様の解析を行う.特定のイベントで形成されたことが明らかな現世タービダイト泥の陸源有機炭素率の層位変化パターンと比較することにより,洪水と海底地震による斜面崩壊のどちらで堆積したのか,1枚1枚のタービダイトについて特定する.また,タービダイトの堆積年代は,半遠洋性泥の層準に含まれる通常量(約10mg)の浮遊性有孔虫による放射性炭素年代測定により見積もる. (2)全有機炭素を用いた高解像度の放射性炭素年代連続測定により一見均質な半遠洋性泥にイベント層を見いだし,その形成年代を特定する手法を学会にて発表し,国際誌に論文を投稿する. (3)これまでに成果が得られた特定の災害によって形成されたタービダイト泥の層位変化パターンについて,国際誌に論文を投稿する.
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