2014 Fiscal Year Annual Research Report
マイトラーヤニー・サンヒターの写本校訂と翻訳(ドイツ語訳)
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13J40173
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
天野 恭子 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(RPD) (80343250)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 古代インド / ヴェーダ文献 / 祭式文献 / Maitrayani Samhita / 写本校訂 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代インドの祭式文献群であるヴェーダ文献のうち、最古層の散文資料を含む、マイトラーヤニー・サンヒターが研究対象である。研究課題は、同文献の、未発表写本を用いた新校訂本の作成と、未訳部分の翻訳である。 写本資料は、米国Harvard大学M. Witzel教授より提供を受けているが、そのうち3本の写本を読み終え、伝承の系統について分類を進めた他、現在さらに5本の写本について読解作業が進行中である。現存の版の読みを訂正する箇所が多く得られ、本校訂本の出版の必要性はますます増している。 H26年8月には、写本資料の提供者であるWitzel教授を訪問し、教授の所蔵する資料を整理し、それまで本研究員の手元になかった写本を見つけ、複写し持ち帰ることができた。これにより、同文献の現存する写本写真をすべて揃えることができ、それら新資料についても早速読解を手掛けている。またこの機会に、同文献のインド現地での写本及び口頭伝承の実態について同教授より学ぶことができ、このことについては校訂本の序文で述べる予定である。 今年度は、これまで「原典校訂と未訳部分の翻訳」という大まかな計画であったものを、出版計画の具体案とともに、研究の進め方の具体的計画へと落とし込むことができた。それは、膨大な同文献の成立と構成に目を向け、同文献の言語層と成立過程の研究を積み重ねたことにより可能となったのである。同文献を成立過程を考慮した意味のあるまとまりに分け、7分冊にして出版する具体的計画ができた。その研究の視点から、下の学会発表を行った他、本研究員が主宰している勉強会「ヴェーダ文献研究会」において、「Yajurveda成立の背景」(第2回ヴェーダ文献研究会、2014年6月)、「Maitrayani Samhitaの新校訂本作成について」(同第3回、2014年9月)、「Yajurveda-Samhitaに集められているマントラの多くがrcであることについて」(同第4回、2015年3月)の3回の報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究対象の文献について、計8本の写本の読解を手掛けることができ、多くの箇所で現存の版の読みを訂正することができた。写本の伝承の系統を考察し、写本及び既存の版の伝承を3つの系統に分類することができた。その中には、現在まで知られていなかった、新発見の系統も含まれる。さらに、写本に現れる、独特の音韻表記などの事項について、知識を蓄積することができ、写本の読解はより正確に、早くなってきている。 また、膨大な同文献の研究の成果を発表するための、具体的計画を作成し、出版の実現性が高まった。この計画の作成は、同文献の言語層と成立過程の考察という、極めて難しい、また地道なデータの蓄積によってなされた考察によって、初めて可能になったものである。膨大な一つの文献の、その全体を研究対象としてきたが、それを意味のあるまとまりに分割できたこと自体が、研究と成果発表を組み立てる上での一番大きなハードルをクリアしたことであると考えている。 そのように分割した7つの部分のうち、1分冊目についての写本校訂が完成に近づいている。H27年度中に、出版原稿として完成する見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、同文献の散文部分(祭式の説明部分)を主な研究対象としてきたが、今後は祭詞の部分も対象とし、文献全体の成立を視野に入れた研究へと進めてゆく。祭詞の部分は、出版済みの本研究員の翻訳において扱っていなかったため、特に同部分の翻訳が待たれている。 この、祭詞の部分と祭式説明の部分の関係について、本研究員は学会の通説を大きく覆す見解に至っている。すなわち、前者が古く、後者は前者を前提として成立した、というのが通説であったが、本課題によるマイトラーヤ二―・サンヒターの考察により、文献の構成はもっと多層的であり、祭詞であっても新しい成立のものもあれば、祭式説明自体が核となって成立している部分もある、ということが明らかになってきた。この見解を、今後学会発表の場で明らかにしたいと考えているが、まずはH27年6月にタイ、バンコクで開催される、16th World Sanskrit Conferenceでの講演において、この見解を述べ、学界に問うつもりである。 原典校訂と翻訳の出版については、文献全体を7つの部分に分けて計画しているが、そのそれぞれの部分について、原典校訂と翻訳を一緒に編集する方針を決めた。(通例では校訂本と翻訳は別の研究であることが多い。)それにより、これまで別々に行っていた写本校訂作業と、内容の読解を、一つのものとして作業をすることができるようになり、研究の効率と質を大変高めている。 現在8割方完成している1分冊目の校訂と翻訳を、H27年度中に完成させる見込みである。
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Research Products
(4 results)