2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14084204
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福島 孝治 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (80282606)
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Keywords | 物性基礎論 / 情報基礎 / スピングラス / モンテカルロ法 / 最適化 |
Research Abstract |
本研究の目的は,スピングラスの物性模型や情報理論模型に共通する複雑な系の位相空間構造を解析する手法を開発することである.本年は,スピングラス系のモンテカルロ計算結果の統計解析と新たなモンテカルロ法の開発に取り組んだ. (1)スピングラス状態の多変量解析 近年の拡張アンサンブルの考えに基づくモンテカルロ法の進展より,これまでに難しいとされてきたスピングラス模型の低温相の計算が可能になってきた.その結果として,モンテカルロ計算結果から,低温相の複雑な位相空間構造をどのように特徴付けるかという新たな興味が出てきた.本研究では,モンテカルロ法で発生させたスピン配位を単にデータとみなし,最も基本的な多変量解析手法の1つである主成分分析を試みた.この解析自体は,物理の業界では帯磁率行列の固有モード解析として知られていたが,それほど勢力的には研究されていなかった.系の大きさをNとしたときに,行列の取り扱いがO(N^3)になってしまうことが理由の1つだろうと思われるが,我々はそれがO(N)で可能な方法を適用した.主成分分析の結果として,主軸の固有ベクトルとその固有値が得られるが,物理的にはそれぞれ,秩序状態とその秩序の強さに関係している.我々は,4次元スピングラス模型において,低温相では熱力学局限(N無限大)においても複数の主軸が必要なことを示唆する結果を得た.これは,低温相が強磁性のように単純に一つ秩序変数だけでは記述できないことを意味しており,スピングラスの平均場描像に近いことを示唆している.また,固有ベクトルは温度変化に大変敏感であることもわかり,いわゆる温度カオスを示唆する最初の結果を得た.(これらの結果は現在投稿中である.) (2)Population annealing法の開発 最近の非平衡統計力学の発展として,Jarzynski等式の発見が挙げられるが,我々はこれを基礎とした新しいモンテカルロ法を考案した.最適化手法として,シミュレテッドアニーリング法は有名であるが,この方法は有限温度サンプリングが可能ではない.我々はJarzynski因子を導入することでそれが可能になることを利用した.これは拡散モンテカルロのようにランダムウォーカーが求めたい分布を近似する手法に属する.我々はリサンプリングと呼ばれる技術を導入することにより,幾つか模型で実用可能であることが確認できた.
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