Research Abstract |
すべてを静電的に制卸するイオン蓄積リングは,[1]非常に重いイオン,すなわち多原子分子イオンやクラスターイオンさらにはこれまでビームとして扱われたことのないDNAやアミノ酸イオンに至る生体分子までが蓄積可能である。[2]分子イオンの場合には,振動励起状態を赤外光放射によって冷却化することが可能である。[3]従来型実験に比べビームが周回するため実質的ビーム強度が強く,電子,中性原子,レーザーとの合流衝突実験が容易であるといった数多くの特徴を備えている。我々は静電型イオン蓄積リングの開発,及び,電子,中性原子,正負イオンビーム,レーザー光とのマージング実験,多価イオンビームとのクロスビーム実験によって,原子分子イオンから巨大生体イオンについての寿命や,電子,中性原子,正負イオン,光子との相互作用の研究といった全く新しい原子衝突物理を切り開くことを目的として研究をおこなった。 平成14年度には,リングの設計及び建設を行ったその結果10^<-11>Torr台の極高真空に保たれた周長約8mのリングを完成した,さらに液体冷却装置のテストを行い,良い断熱性を示すことを確認し,本研究の最大の特色である,リング自身の窒素温度への冷却にも成功した。 続いて平成15年度には,正負両イオンを取り出し可能なデュオプラズマ型イオン源の開発,入射イオン種の選択のためのアナライザー製作,パルス運転のためイオン入射系の整備を行った。さらに,ビームモニター系として,直線部延長上に設置された生成中性粒子検出器や,円筒を4分割した電極から構成されるビームによる誘導電荷を検出する非破壊的ビーム位置モニターを用意した。以上のような,多岐にわたる開発テストを終えた後,年度後半には,実際にイオン源より取り出したAr^+,Xe^+イオンビームをパルス化したのち,イオン蓄積リングに打ち込んで周回テストを開始し,遂に約10000周に及ぶ蓄積に成功した.今後,真空度の向上,および最適パラメータ等の調整を経て分子イオンや巨大イオン入射へ移行し,その寿命の温度依存性測定やレーザーとの交差実験による振動状態の分光測定を計画している.
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