2002 Fiscal Year Annual Research Report
天体衝突が地球表層環境に与える影響の解明:巨大蒸気雲中の化学反応の解析
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14340167
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
五十嵐 丈二 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教授 (00202854)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 俊哉 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (40272463)
杉田 精司 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (80313203)
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Keywords | 高速天体衝突 / 衝突蒸気雲 / K / T境界事件 / 大量絶滅 / 硫黄酸化物 / 反応速度論 / 環境変動 / 地球史 |
Research Abstract |
本年度の研究においては、新規導入した照射装置を用いたレーザー照射実験と硫黄酸化物の酸化反応速度の理論計算を行った。 レーザー照射実験においては、照射により生じる高温プリュームが実際の高速衝突蒸気雲の条件を再現しているのか、もしそうならどんな衝突条件の衝突蒸気雲を再現しているのかの2点を調べることに主眼をおいた。従来の高速分光法では温度と化学組成の測定しかできず、圧力の推定ができなかったため蒸気雲の熱力学状態を一意に決定することはできなかった。しかし今回、水素のH_α線幅の高速分光測定による圧力測定法を開発し、この問題に解決の目処をつけた。例えば、これまでの実験で主に使ってきた10^<12>W/sの強度のレーザー照射で発生するプリュームの熱力学状態が、小惑星が50〜80km/sで地球に衝突した場合に生ずる衝突蒸気雲に対応することが分かった。 理論計算においては、文献データを基にSO_2からSO_3への酸化反応の運動論的反応モデルを作り、硫酸塩岩の高温蒸気雲からのSO_3の生成量を推定した。この計算では、レーザー実験で得られるSO_3量の2桁以上も低い値が得られた。これは、これまで文献に報告されている化学反応と異なる高効率反応経路が存在することを示唆する。ただ、文献データに基づいた理論モデルをK/T絶滅事件において起きたとされる直径10kmの巨大隕石の衝突にそのまま適応した場合においても、SO_3の生成比率は非常に高く、発生する硫黄酸化物の約50%程度がSO_3になるという結果を得た。もしレーザー照射実験から示唆されるような未知の酸化反応経路が存在するならばSO_3の発生高率はさらに大幅に大きくなり、硫黄酸化物全体の99%以上を占める可能性も大きくなる。その場合には、従来のようなSO_2を主生成物とする気候擾乱説の信憑性が大きく疑われることとなり、K/T衝突事件の見直しが必要となる可能性が大きい。(796文字)
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Research Products
(5 results)
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[Publications] S.Sugita, P.H.Schultz: "Initiation of Run-Out Flows on Venus by Oblique Impacts"Icarus. 155. 265-284 (2002)
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[Publications] T.Kadono, S.Sugita, M.Fuyuki, S.Ohno, Y.Sekine, T.Matsui: "Vapor clouds generated by ablation and hypervelocity impacts"Geophysical Research. Letters. 29. doi:10.1029/2002GL015694 (2002)
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[Publications] S.Sugita, P.H.Schultz: "Interaction between Impact-Induced Vapor Clouds and the Ambient Atmosphere I : Spectroscopic Observation"Journal of Geophysical Research. (印刷中). (2003)
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[Publications] S.Sugita, P.H.Schultz: "Interaction between Impact-Induced Vapor Clouds and the Ambient Atmosphere II : Theoretical modeling"Journal of Geophysical Research. (印刷中). (2003)
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[Publications] 杉田精司, 大野宗祐: "K/T絶滅事件はいかにして起こったか?"日本惑星科学会誌 遊星人. 11. 42-52 (2002)