Research Abstract |
1)パーメチル化β-シクロデキストリン(TMe-β-CD)の水溶性ポルフィリン包接機構:TMe-β-CDの異常に強い水溶性テトラアリ-ルポルフィリンに対する包接能の機構を明らかにする目的で,5-phenyl-10,15,20-tris-(3,5-dicarboxylatophenyl)porphyrin(3DC)をゲストポルフィリンとして詳細な検討を実施した.結合定数および熱力学的パラメータは本申請研究への補助で購入したミクロカロリメーターを用いた.その結果,非常に安定な包接錯体生成には,ホストシクロデキストリンの2,3-位の水酸基がO-メチル化されていることが本質的に重要であることが明らかとなった.この場合,包接錯体の大きな安定性は負に大きなエンタルピー変化によってもたらされ,エントロピー変化は不安定化の要因になっている.一方,2,3-位の水酸基が未修飾の場合には,正のエントロピー変化を伴った.TMe-β-CDの大きな包接能は大きなvan der Waals相互作用に起因するものと思われるので,酵素に見られる"induced-fit"形の包接を仮定し,そのことを実証する実験を行った.具体的には^<13>C NMRの錯生成にともなう化学シフト変化を測定した.その結果,TMe-β-CDの1-位と4-位のシグナルのみが大きく低磁場シフトし,包接にともないシクロデキストリン環の構造が大きく歪むことを確認した.つまり,induced-fit型包接が大きな分子間力をホスト-ゲスト間に生み出すという,酵素類似の興味深い結果を見出した. 2)ヘモグロビンモデル系の構築:ヘモグロビン中のヘムは蛋白に囲まれることにより,生理条件下にμ-oxo dimerの生成から逃れている.今回,Fe(III)TPPS(TPPS : meso-tetrakis(4-sulfonatophenyl)porphyrin)の5,15-位のアリール基をTMe-β-CDにより包接することで,グロビン蛋白と同様の効果を発現させることが出来ることを見出した.さらに,このFe(III)TPPS-TMe-β-CD 1:2錯体は水中で選択的なアニオン認識をすることを新たに発見した.HSO_4^-,CO_2^-,HPO_4^-,ClO_4^-などのアニオンはFe(III)TPPS-TMe-β-CD 1:2錯体のFe(III)へ配位することはないが,ハロゲン化物イオン,N_3^-,SCN^-などのアニオンは配位する.ハロゲン化物イオンの中ではI^-<Br^-<Cl^-<F^-の順でFe(III)への配位が強く,N_3^-はこれらのハロゲン化物イオンよりも約100倍程度の強さでFe(III)TPPSへ配位することを見出した.Fを除いて他のアニオンはいずれもシクロデキストリンの存在しない水溶液中ではFe(III)TPPSへ配位することが出来ない.すなわちTMe-β-CDによって作り出される疎水的な環境が,Fe(III)へのアニオンの配位に重要であることが明らかとなった.熱力学的パラメータの測定から,これらのアニオンの配位はエントロピー支配の過程であることが分かった.このようなFe(III)TPPS-TMe-β-CD錯体の特徴は酸素を吸脱着するヘモグロビンモデルに要求される要件をかなりの程度満足しているので,今後酸素分子の配位に焦点を当てた研究を実施する.
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