Research Abstract |
本研究は,マルチモーダル環境下において,主に視覚,聴覚,体性感覚の各情報の相互作用に着目し,超高精度臨場感通信システムを構築することを目的としている. 今年度は,まず,身体形状による頭部伝達関数の推定法について検討した.頭部の大きさや耳の位置などの身体形状からどの程度頭部伝達関数が推定出来るかについて,正準相関分析を用いて分析したところ,頭幅,頭長,といった頭周辺の長さ,肩幅,鼻,耳周辺の長さと,両耳間時間差の正準相関係数が0.900と極めて高い数値となることが示された.更に,これらの身体形状から両耳間時間差のモデルを構築し,聴取実験によりモデルの妥当性を検証したところ,他人の頭部伝達関数を用いて聴取する場合でも,本モデルを用いて算出した両耳間時間差を適用することで,定位精度が向上することが示された.この結果は,身体形状を測ることで,頭部伝達関数をある程度予測することが出来る可能性を示唆している. 更に今年度は,耳介開放型音空間提示システムの開発を進めた.昨年度の研究により,ヘッドホンの自由空間等価特性(PDR)は強く個人性を持つこと,ヘッドホンを用いて音空間提示システムを構築する際にはこの特性の補正が重要であることが明らかとなっている.今年度は,両耳の耳介上部に小型スピーカを下向きに設置する新しい音空間提示システムを開発した.このシステムでは,装着者に依存せずPDRがほぼ1となるため,従来の音空間提示システムに比べより精密に音空間を再現することが出来る.更に,耳介を覆うことで生じる心理的な作用も低減することが可能である.実際に本システムを用いた音像定位実験により,本システムの方が,従来のシステムに比べ,音像定位がより正しく行えることが示された.
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