2003 Fiscal Year Annual Research Report
北方樹木の未利用有効資源活用のための分子生物学的研究
Project/Area Number |
14360093
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤川 清三 北海道大学, 大学院・農学研究科, 教授 (50091492)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒川 圭太 北海道大学, 低温科学研究所, 助手 (00241381)
佐野 雄三 北海道大学, 大学院・農学研究科, 助手 (90226043)
船田 良 東京農工大学, 大学院・農学研究科, 助教授 (20192734)
竹澤 大輔 北海道大学, 低温科学研究所, 助手 (20281834)
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Keywords | 北方樹木 / 木部柔細胞 / 深過冷却 / 可溶性糖質 / 冬季誘導性遺伝子 / 不凍蛋白質 / ノーザンブロツト解析 / 形質転換植物 |
Research Abstract |
高木の樹木は直接外気温にさらされるため、寒冷地の樹木は生物中で最大の凍結抵抗性を獲得している。さらに、厚い木化した二次壁を持つ木部柔細胞はその構造的特性のため、他の植物細胞とは異なる深過冷却という凍結回避機構により凍結に適応するという特徴を持つ。深過冷却による適応には物理的限度があるが北方樹木は-70℃に達する過冷却能力をもつ。本研究では木部柔細胞が持つ高い過冷却能力のメカニズムを明らかにし、その原因物質を単離して、産業分野への応用を目指した研究を行っている。 平成15年度は、1)従来から深過冷却の唯一の原因と考えられてきた細胞壁の構造特性に関する研究により、細胞壁も過冷却に関与するがその関与の度合いは10数℃が限度であることを明らかにした。2)細胞内の浸透圧濃度の上昇も凝固点降下をもたらすことにより見かけ上の過冷却度を上げる可能性がある。シラカンバを用いた研究により過冷却する木部柔細胞には細胞外凍結する師部細胞に比較して高濃度の可溶性糖質が蓄積することを明らかにしたが、凝固点降下への関与はせいぜい3-4℃であることを明らかにし、他の要因の存在があることを示した。3)シラカンバの可溶性糖質の成分については過冷却を促進するような木部特異的な成分は認められなかった。4)カラマツ木部に冬季特異的に発現する遺伝子をディファレンシャル・ディスプレイ法により測定し、季節的な遺伝子発現量の変化をノーザンブロットにより解析した。その結果、冬季特異的に木部のみにあらわれる未同定遺伝子の存在を明らかにし、現在、全長遺伝子構造の解析を行っている。5)シラカンバ木部から、不凍蛋白質として知られるキチナーゼ様蛋白質の精製を行ったが収量が少なく、新たな精製方法の検討を行っている。6)ブナにおいて過冷却能力の変化と密接に関連して出現又は消失する幾つかの特徴的蛋白質バンドを確認した。 これとともに、細胞外凍結するクワ師部細胞においてERに冬季特異的に発現する27kD蛋白質を導入した形質転換シロイヌナズナにおいて、凍結耐性が明確に上昇することを明らかにし、結果は産経新聞など全国紙および数社の地方紙に掲載された。
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Research Products
(9 results)
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[Publications] Utsumi Y: "Seasonal and perennial changes in the distribution of water in the sapwood of conifers in a sub-frigid zone"Plant Physiology. 131. 1826-1833 (2003)
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[Publications] Minami A: "Abscisic acid-induced freezing tolerance in the moss Physcomitrella patens is accompanied by increased expression of stress-related genes"J.Plant Physiol. 160. 475-483 (2003)
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[Publications] Kuroda K: "Xylem ray parenchyma cells in boreal hardwood species respond to subfreezing temperatures by deep supercooling that is accompanied by incomplete desiccation"Plant Physiology. 131. 736-744 (2003)
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[Publications] Arakawa K: "Accumulation of extracellular proteins in birch xylem during seasonal cold acclimation"Cryobiology and Cryotechnology. 49. 195-201 (2003)
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[Publications] 藤川清三: "植物はどのように寒さに耐えるか?"遺伝. 57. 10-13 (2003)
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[Publications] 春日純: "シラカンバ木部組織に蓄積する可溶性糖の季節変化"低温生物工学会誌. 49. 185-189 (2003)
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[Publications] 高田直樹: "深過冷却で寒冷環境に適応するカラマツ木部柔細胞の遺伝子発現"低温生物工学会誌. 49. 191-194 (2003)
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[Publications] 田中聡子: "樹木木部柔細胞の深過冷却をもたらすと考えられている細胞壁マイクロキャピラリーサイズを解析する試み"低温生物工学会誌. 49. 209-213 (2003)
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[Publications] 高田直樹: "深過冷却で寒冷環境に適応するカラマツ木部柔細胞において冬季特異的に増加する遺伝子とその組織的発現様式"日本木材学会北海道支部講演集. 35. 1-4 (2003)