Research Abstract |
本研究では,これまで不明であった日本国内の野鼠におけるBartonella属菌の保菌状況を調査するとともに,分離菌株のrpo B領域のPCR-RFLP法による迅速かつ簡便な菌種の同定法の開発を行った。 1997年10月〜2004年9月にかけて静岡,青森,徳島,神奈川の各県で捕獲した野鼠409頭(アカネズミ47頭,ヒメネズミ18頭,スミスネズミ1頭,クマネズミ259頭,ドブネズミ84頭)のうち,アカネズミの55.3%(26/47),ヒメネズミの50.0%(9/18)からのみBartonella属菌が分離された。ネズミの捕獲県別保菌率は,静岡県の53.8%(21/39),青森県の63.2%(12/19),徳島県の33.3%(2/6)であった。PCR-RFLP法により分離株はB.grahamiiが75.7%,B.tribocorumが10.8%,B.tayloriiが5.4%,未知のBartonella属菌が8.1%であることが判明した。分離株のrpoB領域とgltA領域のDNAシーケンスの成績は,PCR-RFLP法の同定成績と一致した。いずれの株とも異なるRFLPパターンを示した株は,各遺伝子シーケンスの成績から新種のBartonella属菌である可能性が示唆された。 Bartonella henselae感染猫における長期間の回帰性菌血症発現機構解明の一環として,6頭のSPF猫にB.henselaeを実験感染させ,血中菌数の動態と,分離菌のゲノムDNAパターンの推移について検討した。投与菌にはB.henselae自然感染猫より分離したパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)により異なるゲノムDNAパターンを示す2株(A, B株)を用いた。SPF猫の3頭にA株を,他の3頭にはA, B株の混合菌液を皮内接種した。菌投与後,血中菌数を測定し,分離株のゲノムDNAの制限酵素Not1切断パターンをPFGEにより解析した。 菌投与後7日までには全ての猫からB.henselaeが分離された。A株投与群とA, B株投与群の間に,菌血症持続期間,平均血中菌数に有意差は認められなかった。検討期間中A株投与群から分離された全ての株のゲノムDNAパターンはA株と同一であった。A, B株投与群では投与後7日目まではA, B株のパターンが混在して分離されたものの,菌血症の収束直前に分離されたものの多くはA株のパターンを示した。以上の成績から,B.henselae単一の株に感染した猫の体内では,本菌のゲノムDNAは変化しないものの,複数の株に感染した場合,菌血症期間を通して猫体内で優勢となる株の比率が変化することが明らかとなった。
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