Research Abstract |
図形の対称軸を抽出する神経回路を構築した.幾何学的図形からだけでなく,CCDカメラで撮影した中間調(灰色)やテクスチャーのある複雑な画像からも,わずかな変形や輝度の違いなどにもとづく微細な非対称性には影響されずに,対対称軸を正しく抽出することを計算機シミュレーションで実証した.この回路では,ある種の「ぼかし」の機構が,柔軟な情報処理と計算量の削減に役立っている.筆者が以前提唱したネオコグニトロンも,ぼけの導入によって頑強なパターン認識能力を獲得していたが,対称軸抽出においては,ネオコグニトロンとは異なる形状の「ぼけ」の導入が必要になる. 視覚神経系の上位に位置するMST野には,視野の広い範囲に呈示された運動パターンの回転,拡大・縮小などに対して選択的に反応し,しかもその反応が運動の中心位置に影響されない細胞があることが知られている.これらの細胞と同じように,網膜像のoptic flowを抽出する能力を持つ神経回路モデルの構築に着手した.モデルは,網膜(入力層),V1野,MT野,MST野などに対応する神経細胞層を階層的に接続した多層神経回路である.V1細胞は局所的な運動速度を抽出する.その情報にもとついてMT細胞は,隣接する2点の相対速度を抽出する.MST細胞は,MT細胞の出力を統合して,視野全体の回転や拡大縮小などの大局的な動きを抽出する.ここで重要なのは,MT細胞の受容野の興奮性領域と抑制性領域との相対的位置関係を変えるだけで,同じ構造の回路で,回転や拡大・縮小などを抽出できることである. 輪郭統合と図地分離との関係を調べる心理実験を行った結果,ownership属性を有し,かつその極性(図方向)が一方に揃った線分群を統合できることが明らかになり,輪郭統合と図地分離の処理は逐次的ではなく双方向的であることが示唆された.
|