Research Abstract |
好冷性ケイ藻のDMSP生成の特性を明らかにするため,種,生長段階,水温に注目しながら,室内培養実験を行った.植物プランクトンのDMSP生成能(細胞内DMSP量)の見積もりには,粒状態DMSP(DMSPp)濃度をクロロフィル濃度で割ったもの(nmol・L-1-DMSPp/μg・L-1-Chl.a)を用いた.北極海で得られた海水試料から単離したケイ藻3種(Porosira gracialis, Haslea(Navicula) Kjellmanii, Thalassiosira delicatula)を1.7℃の低水温下にて室内培養したところ,粒状態DMSPおよび溶存態DMSP(DMSPd)は,P.gracialisの培地中では実験期間(約13日)を通して検出されなかった.それに対し,H.kjellmaniiおよびT.delicatulaの培地中ではDMSPが検出され,DMSP生成能は対数増殖期にそれぞれ,0.82,0.2nmol盞g-1,定常期にそれぞれ,1.9,23nmol盞g-1であった.次に,1.7および5℃の水温下にてH.kjellmaniiおよびT.delicatulaを培養した.T.delicatulaのDMSP生成能は対数増殖期初期に減少し,対数増殖期後期から定常期に増殖する傾向が見られた.どちらの種も,DMSP生成能における水温の差はほとんど見られなかった.これらの実験から,生長段階によるDMSP生成能の変化が大きい種と少ない種があること,また,少なくとも実験した水温の範囲内では,水温はほとんどDMSP生成能に影響を与えないことが明らかになった. 更に、本課題の実験に使用した植物プランクトン培養株について、その培養条件、特性等についても整理を行った。これらの培養株は低温環境の海水から単離され、低温下で培養されたものであり、低温条件で十分高い増殖速度を持っている。したがって、極域における植物プランクトンの生理生態研究、さらには植物プランクトンを介した生物・化学的研究の室内実験に供するに値する貴重な試料である。
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