Research Abstract |
親族制度や社会慣習が当該地域の社会変容に如何なる影響を与えてきたのかについて国際比較分析を行うためには,複雑な事象についての多面的な視角からの考察が不可欠である。総括にあたる本年度では,これまで収集された二次データに加えて一次データ解析を進め,中西が社会ネットワーク分析の立場から,フィリピン・マニラの低所得地域社会におけるコミュニティの出現についての動学的分析について,丸山が環境経済学の立場から,エコロジカルフットプリントを用い環境保全における地域社会が有するコミュニティ資源の活用について,そして瀬地山と幡谷が,各々社会学と政治社会学の立場から,韓国とコロンビアにおける地域社会理解における血縁ネットワークの役割について,それぞれまとめ,最終的な国際比較への橋頭堡を築いた。まず,中西は,前年度までに明らかになった親族・姻族ネットワークの展開による貧困層地域社会におけるコミュニティの形成過程において,親族グループ間のstructural holesを埋めるべく儀礼親族関係が補完的な役割を果たし,社会ネットワークによるコミュニティ形成を促進している点をあきらかにした。丸山は,このような社会ネットワークによる緊密なコミュニティを通して,市場至上主義を克服して地域資源の循環を重視する社会が実現される点を指摘し,コミュニティと環境保全の関係について具体的な考察を深めた。これらの議論に対して,瀬地山と幡谷は,よりミクロな実証分析を通じて,コミュニティの実体理解を試みた。すなわち,瀬地山は,コミュニティのコアである家族の形成に着目し,経済動機を凌駕する文化や歴史の影響の大きさを韓国における家族を事例として議論し,新制度学派の分析に代替し得る分析を展開する。幡谷は,都市在住農村出身貧困者の地縁・血縁関係が,都市貧困層の政治参加に如何なる影響をもたらしてきたのかを,政府と住民の両面から分析を進めた。
|