2003 Fiscal Year Annual Research Report
現前しないで存在することへの応答を中心とする、ハイデガー哲学の現代的意味の研究
Project/Area Number |
14510001
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
後藤 嘉也 北海道教育大学, 教育学部函館校, 教授 (50153771)
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Keywords | 他なるもの / 解釈 / Positivismus / 声 / 可能性 |
Research Abstract |
今年度はハイデガーにおける現前せずに存在することへの応答がもつ現代的意味を検討した。すなわち、ハイデガーの応答が内包する可能性を表に取り出し、ハイデガーに忠実にハイデガーとは別の仕方で解釈するという解釈学的作業をおこなった。それはおおよそ次の二段階に分かれた。 1)ハイデガーにおいて、現象学とは現実性ではなく可能性であったこと、彼がみずからのかつての著作に言及するばあいにも、過去それ自体を復元するのではなくそこから可能性をくみ出すという意味での対話であり解体であったことを、明らかにした。したがって、ハイデガーに忠実であるとは、ハイデガー哲学をコンパクトに再現することではなく、ハイデガー哲学に隠れている可能性をあらわにするということである。 2)現前せずに存在すること、つまり他なるものが何であるか、あるいは何でありうるかを、レヴィナス、デリダ、アドルノなどを参照することによって考究した。レヴィナスによれば、他なるものは他なる人間であり、デリダは生物や無生物にまで広げる。とくに、アドルノは、ハイデガーが存在するものを禁断の実にすることによって現実の権力関係を肯定するという苛烈な批判を展開したが、一方で、自然と人間が物象化された科学技術の時代にあって、現前する存在者を模写するだけの実証主義(既成のものの肯定主義Positivismus)の言語では表現されえないものを表現しようとする哲学的衝動を彼のなかに読み込んでもいる。 こうした現代の諸哲学との対話からいえるのは、他なるものは存在するもの一般であり、これら他なるものとして、すなわち現前しないものとして存在するものの無言の声に答えることが、ハイデガー哲学の可能性だということである。「エアアイグニスと現-存在との転回」というハイデガーの構図は、この可能性を包含していたことが究明された。
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Research Products
(1 results)