2002 Fiscal Year Annual Research Report
ソクラテス以前の哲学の展開における神話の意義に関する研究
Project/Area Number |
14510008
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
三浦 要 金沢大学, 文学部, 助教授 (20222317)
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Keywords | ヘシオドス / 神的なものと人間 / 初期ギリシア思想家 |
Research Abstract |
本年度は、「神話を愛好する人でさえもある意味では知恵の愛好者である」というアリストテレスの言葉に従い、まず、叙事詩の伝統における宇宙形成論、とりわけヘシオドス(『神統記』)にみられるカオスからの世界の漸進的分節化の神話的描写を中心に検討した。ヘシオドスは世界の起源を「カオス」とする。それは根本的に認知不可能であり、不明瞭なものである。万物の成立は創造ではなく、自然発生的な生成による世界形成であり、いわば生物学的世界観といえる。絶対的一であるカオスという形而上学的構成要素があって初めて多様な分節可能な世界が現れてくる。後の思想家たちは一元論者であれ多元論者であれこの点に注目せざるを得なかった。世界はこの一からの多様性の増大につれて理解可能なものとなっていく。そしてこの分節の進行は周期的な神々の干渉による妨害を通じて達成される。これは実質的に、後のアナクシマンドロスの見解の登場を準備するものであるし、また、世界の進歩に戦争や暴力が常につきまとうと考えている点で、エンペドクレスの見解を先取りするものとなっている。しかもこうした世界観の背景に、世界における神的なものを可死的なものとしての人間が完全に認識可能なのか、それとも人間の知識は何か計り知れない神秘によって制限されているのかという基本的な問いかけが存している。これは、世界の多様性という性質を原初的で解きがたいものとみるのか、明白ではないにしてももっと根本的な単一性に基づくものとみるのかという問いかけでもある。それは、後の哲学者(たとえばパルメニデス、ヘラクレイトス)において、存在と生成、静止と運動、永遠と変化といった対立項の形を取って中心的な問題として現れてくる。世界の起源に対する哲学的問いかけは、ヘシオドスにみられるように、神話の表象を持って初めて可能となったともいえる。
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Research Products
(1 results)