2004 Fiscal Year Annual Research Report
自己犠牲と自己疎外と愛の同型性についての思想史的・精神史的研究
Project/Area Number |
14510052
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
田村 均 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (40188438)
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Keywords | 自己犠牲 / 功利主義 / Mark Carl Overvold / エゴイスト / 自己利益 / 道徳的に生きる理由 / 殉教 / 欲求充足 |
Research Abstract |
本年度は、功利主義と自己犠牲的行為の間の概念的不整合を分析した。概要は次の通りである。 自律を前提して功利主義を受容するという条件の下で、今、行為者Aが、行為Xを欲し、それを遂行したとする。ただし、同時に、別の行為Yが存在し、Yを遂行すればAの効用は最大になるかもしれないとする。このとき、(イ)Aにとって、本当にXの効用がYの効用よりも小であったなら、Aの行為Xは自己犠牲的行為と見なしうる。だが、功利主義の原則に従い、AがXを選好することは不合理である。(ロ)Aにとって、実際にはXの効用がYの効用よりも大であったなら、AがXを選好することは合理的であるが、Xは自己犠牲的行為ではない。すなわち、この問題設定において、自己犠牲的行為は、(イ)不合理(すべきでないこと)であるか、(ロ)存在しないか、いずれかである。 上記の問題設定につき、マーク・カール・オーヴァヴォルド(Mark Carl Overvold,1948-1988)の3篇の論文を分析し、次のような結論を得た。 (1)オーヴァヴォルドは、(ロ)の結論を避ける目的で、行為者の自己利益に関わる欲求を、行為者の全欲求の或る部分集合に限定する特殊な条件を設定したが、このやり方は、所期の目的を達成する上で論理的に有効であるのみならず、一般に、自己及び自己利益という概念の内実を再検討する試みとして有意義である。 (2)オーヴァヴォルドは、(イ)の結論を避ける目的で、自己犠牲的行為が合理的でありうるとする議論を立てたが、オーヴァヴォルドが論証し得たのは自己犠牲の合理性ではなく、殉教の合理性である。 (3)オーヴァヴォルドは、エゴイストが自己犠牲的な道徳的主体となりうることの説明として、エゴイストの自己成長のストーリーを提示しているが、このストーリーが成り立つためには、効用とは別の価値規準を導入する必要がある。
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Research Products
(2 results)