2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510063
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
永田 靖 大阪大学, 文学研究科, 教授 (80269969)
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Keywords | 演劇史 / 20世紀演劇 / 近代演劇 / ロシア演劇史 |
Research Abstract |
演劇史学は19世紀から20世紀にかけて形成されてきた。とりわけ20世紀初頭のドイツにおいて演劇史の再構築の手法を軸に形成されてきたが、少なくともロシアにおいては、18世紀から、そして主として19世紀初頭から演劇史記述は本格化してきている。それは基本的には18世紀演劇史を記述するということで形成されてきた。19世紀において、18世紀ロシア演劇の起源を演劇史的に把握することが、演劇史学の隆盛にとって力があった。特に19世紀後半から世紀末にかけては、ロシアのアイデンティティが動揺し、そのアイデンティティの確立にとって演劇史が一躍を担うことになる。ロシアをはじめ、ヨーロッパでは19世紀にナショナル・シアターが確立されていくが、演劇史とはそのナショナル・シアターの演劇上演の歴史でもあったのである。19世紀末までにナショナル・シアター史観が確立するが、他方それらの演劇史観を塗り替える動きも出てきている。それは例えば、フセヴォロツキイ=ゲルングロスの『ロシア演劇史』(1929)は、行為性の名の下に描かれた演劇史であり、プレハーノフ的な社会学的アプローチを超えた、日常性の演劇を踏まえたものになっている。この演劇史は、同時代のエブレイノフの演劇史とともに、現代のパフォーマンス理論の先駆けとみなすことができる。またヴァルネーケの『ロシア演劇史』(1914)は、上演された劇のみを扱うという点において、現代の上演分析を演劇史に反映させたような形をとっている。これらの演劇史は、単なるナショナル・シアター史観を超えたものとなっている。他方、20世紀に成立する2つのロシア演劇史のうち、1966年に刊行開始される「ソビエト演劇史」(6巻本)は、1917年のロシア革命以後を扱うきわめて政治的な枠組みを持っている。しかししばしばそれまでの演劇史記述の手法にのっとったもので、ソビエト的なアイデンティティに必ずしも依存しようとはしていない部分も少なくはない。しかし一方で、ソ連邦の他民族の演劇や、他の共和国の演劇を丹念に拾い集めていわば百科事典的な構成にもなっている。民族の演劇を扱う部分は、必ずしもその民族の自立を促すような記述ではなく、ロシア主義的な方向性が読み取れる。この点においては、このソビエト演劇史は従来のナショナル・シアター的演劇史観を携えている。20世紀演劇は、19世紀以来成立したナショナル・シアター的演劇史観を一方で十分に吸収しながら、他方、それを修正する試みを繰り返してきたのである。そしてそのような演劇史の記述を促すような演劇実践が背景にあったことを物語っている。
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Research Products
(3 results)