2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510072
|
Research Institution | Hokkaido Musashi Junior College |
Principal Investigator |
中澤 千磨夫 北海道武蔵女子短期大学, 教養学科, 教授 (10198062)
|
Keywords | 小津安二郎 / 小津 / OZU / 日本映画 / 映画 / 映像分析 / 映像論 |
Research Abstract |
小津安二郎と山中貞雄はともに日中戦争に従軍した。その間一度だけふたりは会っている。南京事件渦中の1938年1月12日、南京郊外でのことである。これまでの研究では、それは句容でのこととされてきた。本研究ではそれが、南京市内湯山鎮にある現・中国人民解放軍砲兵学院南京分院でのことであったと断定した。小津安二郎・山中貞雄研究史の年譜的事実の訂正を促す成果である。 山中との対面をはじめとして、日中戦争が小津安二郎の精神および作品に与えた影響の大きさは計り知れない。過年度までの本研究では、『秋刀魚の味』(1962年)における平山周平(笠智衆)のあの戦争に「敗けてよかった」という感慨を高度経済成長期日本人の逆転の発想と捉えていた。今年度の研究では、それだけにとどまらず、小津が南京をはじめとして中国大陸で体験した「戦争」を踏まえた実感の表出でもあったことを明らかにした。小津のローアングルは死者の眼であった。 『麦秋』(1951年)はいわゆる小津調のピークを飾る紀子(原節子)の結婚をめぐる物語である。本研究ではその表面の華やかさの奥に潜む戦争の影を明らかにした。『麦秋』に散りばめられた麦、「河内山」、善通寺、土浦、宇都宮、リケッチアなどの言葉やエピソードは、すべからく先の戦争に繋がっており、この作品は死者の眼で語られている。その意味で『麦秋』は真の反戦映画なのである。また、これまでおろそかにされてきた『麦秋』における性的な話題の意味も明らかにした。
|
Research Products
(3 results)