2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510078
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
宮下 規久朗 神戸大学, 文学部, 助教授 (30283849)
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Keywords | 反宗教改革 / イエズス会 / 福音書画伝 / 南蛮美術 / カラヴァッジョ / 果物を剥く少年 / 隠れキリシタン |
Research Abstract |
今年は、反宗教改革の国際的広がりという視点から、イタリア以外に普及した反宗教改革期の美術様式に注目した。具体的には、16世紀後半から17世紀にかけてイタリアのみならず、イエズス会が世界中に携えて反宗教改革期のキリスト教図像の規範を生み出した『福音書画伝(Evangelicae historiae imagines)』(ヘロニモ・ナダル著、ヴィーリックス兄弟版刻、アントウェルペン、1593年)の完全な復刻版を入手し、その図像伝播について考察した。マテオ・リッチ以降のイエズス会が中国にもたらした同書は、『誦念珠規定』(1624年刊)、『天主降生出像経解』(1637年刊)に結実し、さらにその一部は日本にももたらされたと思われる。中国におけるキリスト教美術についてはほとんど研究されていないが、私はそこにいくつかの問題を見出し、今後の研究課題としたい。また、わが国でもキリスト教容認期、つまり南蛮時代の美術に関しては明治以降、着実な研究の蓄積が見られるが、禁教下から今日にいたるまでのいわゆる「隠れキリシタン」の美術については、その聖像(イコン)が存在するにもかかわらず、美術史上の研究対象となったことはほとんどなかった。しかしこれは、キリスト教主題を持つ原図が閉ざされた社会でいかに変容し、異種の図像にいたるかというきわめて興味深い問題を提示しており、長崎県生月島で今も信仰されている聖画(納戸神・御前様)について若干の調査研究を行い、小論文を執筆した(現在、印刷中)。この問題は今後も検討していきたい。16世紀後半以降のこうした図像東漸については、私が行ってきた今までのバロック美術研究を簡略にまとめて昨年上梓した著書『バロック美術の成立』にもその研究成果の一端を示した。また、本研究の主対象である画家カラヴァッジョについては、彼が独自の様式を開拓する以前の初期様式、つまり反宗教改革期の美術の影響を直截に被っていた若年期の作品を検討すべきだと思い、最初期の作品《果物を剥く少年》について研究した。この作品は多くの模写によって図様は知られるが原作は失われた可能性が強いため、従来あまり研究されてこなかったが、幸いこの作品の模写のうちもっとも原作に近いと思われるプロトタイプが東京の個人蔵にあるため、所蔵者のご好意で実際に詳細な調査をさせていただくことができた。その結果、この東京作品と比肩する優れたバージョンであるローマ個人蔵の作品との相違を明らかにでき、いくつかの新知見を得た。さらに、従来、風俗画の先駆として評価されてきたこの作品に、実はキリスト教的な寓意がこめられているというカルヴェージらの学説を補強する新たな要素を発見した。その結果、ローマに来た当初からカラヴァッジョは当時のキリスト教的思潮に感化され、ダルピーノら反宗教改革期に直接つながる作品を発表していたという仮説を立てることができたのである。この成果を『美術史論集』に発表した。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 宮下規久朗: "カラヴァッジョ最初期の作品《果物を剥く少年》について"美術史論集. 4. 15-26 (2004)
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[Publications] 宮下規久朗: "隠匿と変容-隠れキリシタン聖画考"美術フォーラム21. 9(印刷中). (2004)
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[Publications] 宮下規久朗: "バロック美術の成立"山川出版社. 98 (2003)