2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510078
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
宮下 規久朗 神戸大学, 文学部, 助教授 (30283849)
|
Keywords | カラヴァッジョ / 反宗教改革 / ローマ |
Research Abstract |
今年は著書『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』をまとめるため、今までに書いた諸論文を点検して書き直す作業に従事した。とくに第一部「カラヴァッジョの位置」の第二章「1600年前後のローマ画壇とカラヴァッジョ」は、かつて書いた論文をほぼ全面的に書き直し、大幅に加筆してほとんど新しい論文にしてしまった。まず、その第一節「反宗教改革と美術」においては、イエズス会を中心としたカトリックのイメージ戦略と、日本を含めたその世界的な普及の様相について検討し、第二節「クレメンス8世治下のローマ画壇」においては、1600年の「聖年」前後に起こったローマ画壇の変化と初期キリスト教文化の見直し運動について考察した。第三節「ロンカッリとダルピーノ」においては、1600年前後のローマ美術界で指導的役割を演じたカヴァリエール・ダルピーノとクリストファノ・ロンカッリについて、従来のような、後期マニエリスムの没個性的な画家という認識ではなく、カラヴァッジョの革新に影響を与えた重要な画家としての再検討を試みた。とくにダルピーノについては最近、サンティッシマ・デイ・ペッレグリーニ聖堂のためにカラヴァッジョに注文され、ダルピーノが仕上げることになった《聖三位一体》がメキシコで発見され、またカラヴァッジョの同主題作品の影響源となった《ダヴィデとゴリアテ》が発見されるなど、目覚しい発見があいついだが、こうした最新の研究成果を検討して、ダルピーノとカラヴァッジョの位置について改めて考察することができた。第四節「アンニーバレ・カラッチ」についても、カラヴァッジョと同時に競作したとされていたサンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂のチェラージ礼拝堂の壁画が、まずアンニーバレがすべてを完成すべくとりかかり、中途でアンイーバレが退いたためにカラヴァッジョにとってかわられたという事実があきらかになり、カラヴァッジョによる側壁の壁画《聖パウロの回心》にも、より伝統的な図像をとどめた描き直し(ペンティメント)が発見されたことから、二人の関係について新たに考察する必要に迫られた。その結果、両者相互の関係というよりは、アンニーバレからカラヴァッジョという影響の方向が強まったようである。また第五節「ジョヴァンニ・バッティスタ・ポッツォとその他の画家たち」では、今までほとんど言及されることになかったロンバルディア出身の夭折の画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ポッツォに注目し、この画家がいかに革新的で、カラヴァッジョの画風形成にも大きく作用したかということを初めて論じた。また、ポッツォの重要な壁画のあるサンタ・スザンナ聖堂の主祭壇画であるトンマーゾ・ラウレーティの《聖スザンナの殉教》にも着目し、これがカラヴァッジョの《聖ルチアの埋葬》の霊感源であるとした。このように、1600年前後の混沌とした美術の状況と、反宗教改革とキリスト教考古学の流行に鼓舞されて起こった新たな潮流を、カラヴァッジョの革新という座標軸を設定することであきらかにすることができた。本書には、ほかにもカラヴァッジョの生涯と批評について、最新の研究成果や発見を反映した考察を掲載することができた。
|
Research Products
(1 results)