2002 Fiscal Year Annual Research Report
がん終末期医療における死にゆく過程と傾聴に関する臨床社会学的研究
Project/Area Number |
14510186
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
奥山 敏雄 筑波大学, 社会科学系, 助教授 (90201996)
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Keywords | 終末期医療 / 医療化 / 死にゆく過程 / 良き死 / 自分らしい死 / 医療社会学 |
Research Abstract |
ホスピスや緩和ケアの登場とともに終末期医療が新たなタイプの医療として確立されてきたが、終末期医療において死にゆく過程がどのようにして医療の対象として医療システムに組み入れられてきたのか、そこにはどのような問題があるのか明らかにすべく、がんの終末期を典型例として以下の研究を行った。 第一に、終末期医療を医療化という観点から分析するための理論枠組みを構築した。医療スタッフと患者や家族とのコミュニケーションによって形成される社会システムとして医療を捉えることができ、そこでは他のシステムと区別される独自のフィクションが生み出されている。終末期医療においては死にゆく過程が、心理的過程やコミュニケーション過程として経験科学的に対象化され、これら専門知識がコミュニケーションの過程へと差し戻され、死にゆく人の様々な苦痛を緩和しその人固有の生を全うできるよう援助するというフィクションが形成されることにより、終末期医療が固有の医療として正当化されることになる。 第二に、がんの闘病記の分析を行うことを通じて、医師スタッフ、患者、家族との間のコミュニケーションのあり方、これらのコミュニケーションによって支えられる患者のアイデンティティのあり方、病状の変化にともなうコミュニケーションやアイデンティティの変容という点から、終末期医療を支えるフィクションの様々なヴァリエーションと、それらが死にゆく過程をどのように方向づけているのかを明らかにした。フィクションには、特定の死に方を理想化する「良き死」、多様な死に方を許容する「自分らしい死」、さらにそれぞれのヴァリエーションがあり、死にゆく過程の医療化に大きな影響を与えていることが明らかになった。
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