Research Abstract |
本研究の目的は,近現代韓国社会における在地エリートが,近代化,植民地支配の介入,ならびに産業化・都市化の過程で,自らの社会組織と文化伝統をどのように再編成し,さらには地方社会の公的な領域にかかわる諸活動をどのように展開してきたのかについて,社会人類学的観点から究明することにあった。最終年度にあたる本年度は,昨年度までの研究成果を総括するとともに,補充調査・研究をおこない,研究成果報告書の取りまとめにあたった。その結果として,昨年度までの成果に加えて,以下のような新たな成果と展望を得ることができた。 (1)植民地期の地域開発と媒介者の性格について,主として南原地域邑内地区の事例を検討することを通じて,(1)開発に動員される資源は,程度の差こそあれ,多分に外部のそれに依存していたため,それとのチャンネル,なかでも植民地の中央・地方行政主体とのチャンネルを有する主体の役割が重要となっていたこと,(2)邑内地区で開発実践に関与していた主体としては,官員・元官員,事業家・地主,あるいは篤志家等の朝鮮人に加えて,元官僚あるいは事業家・地主といった内地人を挙げることができるが,そのなかでも,在地の幅広い人脈を有する朝鮮人媒介者は,行政と地域住民の利害を調整するとともに,地域の経済的振興とローカルな文化伝統の再構築の両面で積極的な役割を果たしていたこと,等を明らかにした。 (2)(1)-(2)で指摘した媒介者の類型は,特に吏族家系出身者のあいだに顕著に見られた。 (3)解放後の地域開発については,地元有志の開発実践に見られる両面性という点で,植民地期のそれと類似した構図を指摘できる一方で,特に80年代以降の産業振興に関しては,産業化の直接的なインパクトや,都市化による文化伝統の再構築と大衆消費の普及による商品の象徴的な再構築が,主要な要因として作用していることを明らかにした。
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